読書ジャンキーの本棚 -10ページ目

 『ここだけは行ってみたい映画で見た景色』

小澤 研太郎, ピーピーエス通信社
ここだけは行ってみたい 映画で見た景色―世界名景紀行写真集

題名そのままの写真集。


別に、取り上げられている映画を観ていなくても、関係なく、世界各地の名景55点を楽しめる。


ディズニーランドにある白雪姫の城のモデルになったドイツのノイシュバンシュタイン城。
荘厳な城と、それを囲んでいる深い森と湖の景観は、中世に迷い込んだような錯覚を覚える。


西部劇『シェーン』の舞台となったワイオミング州。
グランドティトン国立公園の湖に映る連山の絵画のような美しさ。


ライトアップされたパリのルーブル美術館の夜景も圧巻。


見応えのある景観をとらえた写真ばかりで、見応えは十分。
この手の写真集としては、比較的値段が安いのも良心的である。



切れ味: 良






お勧めの関連書籍

週刊現代編集部

完全保存版 世界「夢の旅」BEST50

河田克之 『さらば歯周病』

著者: 河田 克之
タイトル: さらば歯周病

最近、鏡の前で、自分の口を開いて、歯を見ていると、気のせいか、歯がいくぶん伸びたような感じがする。

が、よく考えてみれば、これは、歳を重ねるにつれて、歯茎が後退したせいであることに気がついた。

そろそろ、虫歯だけでなく、歯周病についても考えなければならない時期に来たようだ。

そんな時に出逢ったのが、本書である。


この本によると、歯周病予防のためには、毎日の入念な歯磨きケア以外に、一月に一回、定期的に歯科医院に通って、歯石の除去をする必要があるらしい


虫歯の治療に行くと、大抵、最後の回に、歯石のクリーン人グをやられる。
歯科衛生士が手にした、先端の尖った鉤状のようなもので、歯と歯茎の境目をぐりぐりとやられる。
当然、歯茎は血まみれ。
ホント―に痛い!


あれを一月に一回ってか?
勘弁してほしい。
でも、歳取ってから、入れ歯になりたくはないし。


読んで、より一層、悩みの種が増えてしまいました。



切れ味: 可

森村誠一 『人間の証明』

著者: 森村 誠一
タイトル: 人間の証明

昨年、時代背景のシチュエーションを変えて、テレビでドラマ化されていた。


松本清張の『ゼロの焦点』、『砂の器』の系譜に属するミステリーである。
つまり、過去に置き捨ててきた筈の因縁が、現在に跳ね返ってくるという設定が、犯罪の引き金になっている事だ。


この推理小説においては、謎解き自体は、大して重要ではない。
殺人事件の犯人は、物語の早い段階で、すぐに特定できてしまう。
ところが、状況証拠は、限りなく黒なのだが、物的証拠となる決め手がない。
己の保身のためには、肉親の殺害さえ辞さない冷血な犯人を、任意同行の取調べで、いかに自供させるか。
刑事と犯人の緊迫感あふれる取調室での攻防が、この物語の最大の見所である。
本書のタイトルも、これと関係している。


この作品は、推理小説でありながら、同時に、骨太な人間ドラマに仕上がっている。
麦わら帽子、西条八十の詩集など、謎解きのヒントとなる小道具の使い方も上手い。
そして、ラストシーンの余韻は忘れ難い。
森村誠一の代表作であることは間違いない。


残念なのは、この作品をピークにして、以後、発表される作品の質が、下降線の一途を辿っていったことである。


切れ味: 良


お勧めの関連書籍

松本 清張

砂の器

森村 誠一

白の十字架

乃南アサ 『結婚詐欺師』

著者: 乃南 アサ
タイトル: 結婚詐欺師〈上〉

プロ(?)の結婚詐欺師と、それを追う警察の攻防戦。
テレビドラマにすれば、そこそこの視聴率は、とれるかもしれない。


作品の肝は二つある。


一つは、文字通り、結婚詐欺師の手練手管を詳細に描写していること。
乃南は、かなり取材に時間を費やしたのではないだろうか。
そう思えるほど、この詐欺師が、女性を騙す手口は巧妙を極め、お見事に尽きる。


二つめは、この詐欺師の犯行を捜査している刑事が、主要人物として登場するのだが、その刑事の元恋人が、この詐欺師と付き合い始めてしまうことである。
まるで、手抜きドラマのようなシチュエーションであるが、それによって、単線的であった物語に、複雑な色合いが帯びてくる。


とはいっても、小説自体に意外性があるわけではない。
まあ、こんなもんだろうなという予想通りに物語は進行していく。


このテーマ、内容で、文庫本の上下二巻という長編仕立てにする必要があったのか、いささか疑問符がつく、というのが正直な感想。


読了後、なんの感慨も残らなかったが、小難しいことを四の五の言わず、読んでいる間だけ愉しめればいいという人には、お勧めである。



切れ味: 可

塩野七生 『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』

著者: 塩野 七生
タイトル: チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷

ルネサンスの女たち 』で、デビューした塩野七生の第二作目。
塩野七生の全作品の中でも、最も筆が冴えていて、躍動感に満ちている。

とにかく主人公のチェーザレ・ボルジアが、惚れ惚れするほどカッコよく描かれている。


同時代人のマキアヴェッリ をして、「滅多にしゃべらない、しかし、常に行動している」といわしめた男である。
その華麗な経歴、知性、気品、威厳、若さ、卓越した行動力。
英雄たるべき条件を全て兼ね備えている。


物語の舞台は、ルネサンス最盛期の十五世紀末、イタリア
当時のイタリア半島は、大小さまざまな都市国家、封建領主、そしてローマ教皇領が、入り乱れていた。


1494年、フランス王シャルル八世が、イタリアに侵攻。
分裂状態にあるイタリアは、強大な軍事力を背景にしたフランスの前に、無力を露呈させる。


この外敵侵入に危機感を覚えたのが、時のローマ法王アレッサンドロ六世。
法王は、イタリア半島の再興を、彼の息子チェーザレ・ボルジアに託す。
すでにキリスト教会の枢機卿の地位にあったチェーザレは、緋の衣を脱ぎ捨て、代わりに剣をとる。
目指すは、分裂したイタリア半島を武力統一し、自らが理想とする王国を樹立すること


「行動の天才」チェーザレ・ボルジアは、野望実現に向けて動き出す。
政略結婚、暗殺、陰謀、戦争、虐殺――目的遂行の上で、有効ならば、どのような策であろうとも果敢に実行に移す。
その権謀術数の狡猾さ、敵対する者への容赦のない残忍な仕打ちは、近隣諸国を、震え上がらせることになる。


しかし、運命の神は、皮肉屋であるようだ。
チェーザレの野望が、まさに達成されんとした時に、不可抗力ともいうべき事件によって、彼の野望は費える。
その後、長い拘束と潜伏期間を経て、再起を図るべく、異国の地で、戦場に出陣するも、壮絶な最期を遂げる。
わずかに三十一歳の生涯だった。


チェーザレ・ボルジアは、これまで悪の権化のごとく評されてきた。
しかし、彼が統治した地域は、いずれも治安が回復され、地域の住民たちは、安心して暮らせるようになった。
ゆえに、彼の支配下にある住民たちは、チェーザレに敬意を抱き、忠誠を誓ったという。
マキアヴェッリが、理想の君主として、評価する所以である。

バートランド・ラッセルも云っている。


――残念ながら、われわれは、善人からよりも、悪人からより多く学ぶものがある。


悪人と評される人物と真正面から向き合い、その悪を肯定しつつ、これほど鮮やかに描ききった塩野七生の手腕に脱帽する。


著者によれば、この作品だけは、なぜか、読者層が若いという。
主人公のチェーザレ・ボルジアも若ければ、それを書いた当時の著者も若かった。
作品全体に、その若い情熱が横溢しているためであろうか。


本書の冒頭に掲げられたマキアヴェッリの言葉も、期せずして、この作品の若々しさを象徴しているかのようだ。


運命は女に似て若者の友である。なぜならば若者は、慎重に事を運ぶことはせず、敏速にそしてきわめて大胆に女を支配するからである。
                      ――マキアヴェッリ 『君主論』より


切れ味: 優


お勧めの関連書籍

マキアヴェリ, 佐々木 毅

君主論

塩野 七生

わが友マキアヴェッリ―フィレンツェ存亡

塩野 七生

神の代理人


津本陽 『鬼の冠』

著者: 津本 陽
タイトル: 鬼の冠

津本陽の小説は、はっきり言って、どれも長くて、つまらない。
けれども、本書は例外だ。
津本の長編小説としては、奇跡的に短いうえに、けっこう面白い。


明治から昭和初期にかけて生きた大東流合気柔術の達人、武田惣角の伝記である。

惣角は、遅れてきた武芸者ともいうべき人だ。
小野派一刀流と直心影流の奥義を極めた剣術の天才。
本当は、一剣を抱いて、武者修行に終始する人生を送りたかったのかもしれない。
江戸時代に生まれていれば、剣豪として名を馳せたに違いない。


しかし、時はすでに明治。
武士は滅び、廃刀令で、刀を差すことも禁じられた。
惣角は、やむなく、武士の表芸である剣術に対して、裏芸とされる柔術で、活路を開いていくしかなかった。
巷では、古色蒼然とした柔術を蹴散らす勢いで、嘉納治五郎の興した講道館柔道が、全盛を極めていた。
小柄な惣角は、身体的ハンディを克服するために、柔術に合気の原理を取り入れた合気柔術の技を磨く。


合気とは、相手と接触した瞬間に、相手の力を無力化して、重心を崩してしまう術技である。
柔道のように、押したり引いたりして、相手を崩す運動原理とは、根本的に異なるものだ。

惣角は、この合気の技を駆使して、柔道の猛者たちを次々に破っていく。

さながら、合気柔術版「空手バカ一代」のようで、痛快だ。


なお、柔道小説『姿三四郎』のモデルである西郷四郎は、武田惣角と同郷で、信憑性は疑わしいが、相弟子だったという説もある。
また、有名な合気道開祖の植芝盛平は、武田惣角の弟子でもあった。


切れ味: 可


お勧めの関連書籍

佐川 幸義, スタンレー・プラニン, 合気ニュース編集部

武田惣角と大東流合気柔術―大東流界第一線の師範方が語る

木村 達雄

透明な力―不世出の武術家 佐川幸義

今野 敏

山嵐

新井和生/ 野呂希一  『暦の風景』

著者: 荒井 和生, 野呂 希一
タイトル: 暦の風景

旧暦では、春夏秋冬の四季を、更に細分化して、「二十四節気」としていた。
それは、自然の変化に、収穫が大きく左右される農耕や、漁業を主とした日本人の必要性から生まれたものであろうか。


この本は、その二十四節気の、各時節ごとの風景写真と、その時節にまつわる言葉の意味などを記した写真集。


日本の四季の移ろいには、大陸にはない繊細さと味わいがある。
そんな表情豊かな時節の色彩と、匂いを感じさせる風景写真の数々。


日本列島の北から南まで、アットランダムに、各地の、時節の、移ろいゆく情景のワンシーンを切り取った写真には、なぜか郷愁をくすぐられる。
眺めているだけで、懐かしく、とても、寛いだ気分になれるのだ。


そして、驚くべきは、季節にまつわる言葉の豊饒さである。
自然と肌で馴染み、その感覚を、巧みな言語に変換する想像力――。


農耕民族ゆえの特性か、いにしえの日本人は、微妙に移ろう季節に対する感受性が、よほど研ぎ澄まされていたようだ。
しかも、それを言語化できる想像力も卓越している。


逆に、現代人が、機械文明の発達による恩恵と引き換えに、いかに五感力というか、感性を鈍磨させてきたのか、ということも痛感させられる。



切れ味: 良





お勧めの関連書籍

野呂 希一, 荒井 和生

言葉の風景

鍵和田 〓@5CFC@子

花の歳時記 春

夢枕獏 『陰陽師』

著者: 夢枕 獏
タイトル: 陰陽師(おんみょうじ)

『陰陽師』シリーズの魅力は、心地のよいマンネリズムだろう。
この連作短編は、ほぼ例外なく、安倍晴明の屋敷で、二人の男が酒を酌み交わしているシーンから始まる。
一人は、いうまでもなく陰陽師の安倍晴明。
いま一人は、晴明の盟友ともいうべき源博雅。
屋敷の濡れ縁に座った、二人の膝元には、酒器が置かれている。
目の前に広がる庭には、季節の草花が、ところ狭しと吹き乱れている。
で、著者の言葉を借りると、二人は――。


ほろほろと酒を飲んでいる。


こっちまで、ほろ酔い気分になる描写である。


酒を含みつつ交わされる二人の会話は、とりとめがない。
平安の都に流布する噂話の類から、ちょっとした人生哲学まで。
が、最終的には、妖しの話へとゆきつく。
そして、事態解決に乗り出す為、どちらからともなく声をかけあうのだ。
ここも、毎度おなじみのセリフになっている。


「ゆこう」
「ゆこう」
そういうことになった。


こうして、話が転がっていくのだが、このワンパターン的な展開を、むろん著者は、確信犯的にやっている。
そして、読者も、いつも通りの物語の展開を愉しんでいるのだ。
シリーズ物のマンネリ化は、本来、もっとも危惧すべきことなのだが、著者は、それを逆手にとっている。
そこが、この『陰陽師』シリーズの類稀なところだ。


ところで、このシリーズには、闇に巣食うさまざまな魔物が登場する。
古代から中世の頃に編まれた説話集などを材料にしているらしい。
それに、著者独自の味付けを存分に施して、なかなかの料理に仕上げている。


かつて芥川龍之介も、こうした説話集をもとに、芸術性の高い短編を多数残した。
夢枕獏は、エンタメ作家なので、芸術性ではなく、娯楽性を十二分に注ぎ込んでいる。


四六時中、光と音が絶えることのない現代と違い、千年も昔の平安時代では、夜ともなれば、静寂の闇が、あたりを支配していた。
そこには、魔物の群れが跳梁跋扈しているように、当時の人には見えたに違いない。


闇に対する根源的な恐怖が、人の想像力を掻き立てたことを思えば、現代人の方が、もしかしたら、想像力が貧困になっているのかもしれない。



切れ味: 可






お勧めの関連書籍

芥川 龍之介

羅生門・鼻

石川 淳

新釈雨月物語

 宮部みゆき 『模倣犯』

著者: 宮部 みゆき
タイトル: 模倣犯〈上

この小説は、絶対悪の化身のごとき犯罪者が引き起こす連続殺人事件を軸にして展開されます。


他人を、恐怖と絶望のどん底に突き落とし、最後には死の苦痛を与えること、そして、世間を欺くことに酔い痴れる狂気の犯罪者「ピース」。
冷酷無情の性向と、狡猾極まる頭脳を持った「ピース」の犠牲者となった遺族や、関係者たちは、いかにして、この犯罪者に立ち向かうのか。


ということで、救いのない物語が、上下二巻にわたって、延々と続きます。


ラスト近く、テレビの報道番組の特番での、フリーランス・ライターと、「ピース」の論戦は、この小説の最大の見せ場のはずでした。
ところが、あれほど怜悧な犯人が、相手の挑発に乗せられて、我を失い、呆気なく自滅。
これには、正直いって拍子抜けしてしまいました。
それまで、長々と物語を書き進めていたのに、なぜか肝心の箇所の書き込みが足りなかったように思われます。
名作『火車 』と較べて、ラストの詰めの甘さが、惜しまれます。


なお、この小説は、映画化もされました。
原作を冒涜しているかのごとき、最悪の映画でした。
原作者である宮部氏の心中は、察するに余りあるものがあります。


切れ味: 可


お勧めの関連書籍

雫井 脩介

犯人に告ぐ

 松島庸 『追われ者』

著者: 松島 庸
タイトル: 追われ者―こうしてボクは上場企業社長の座を追い落とされた

空前のネットバブルに沸いた2000年、史上最年少二十六歳という若さで、新興市場への上場を果たした二人の経営者。
クレイフィッシュの松島庸。
サイバーエージェントの藤田晋


ほぼ同時期に、競うようにして上場した両者に、やがてネットバブル崩壊の危機が訪れる。
藤田晋 は、悪戦苦闘の末、辛うじてこの苦境を脱した。
しかし、松島庸は、自らが創業した会社から追放される。


本書は、松島自らが、その経緯を綴った「敗軍の将 語る」である。
これが、シェイクスピアの芝居でも観ているようで、実に面白い(むろん著者にとっては、面白かろうはずはないが)。
当事者の手記だけに、へたな経済小説などより、よほど迫力がある。
しかも、ドッグイヤーの速度で時間が進むと云われるIT業界の会社の話だけに、起伏に富んだ波乱含みの展開は、まるで、ジェットコースターにでも乗った気分になる。


著者の周囲に群がってくるのが、これまた『ベニスの商人』も顔負けの銭奴ばかり。
この連中が、会社を喰い物にしようと、跳梁跋扈する。
そして、著者の孤軍奮闘も空しく、この連中の画策したクーデターによって、追われてしまう。


ベンチャー企業の経営とは、かくも大変なことなのか。
その現実の厳しさを、まざまざと見せつけてくれる。
起業ブームに浮かれて、ひとつ自分も、などと安易に考えている人は、是非、一度読んでみるといい。



切れ味: 良






お勧めの関連書籍

渡辺 仁

起業バカ