『ブゴニア』の感想~とにかくひとこと言いたくなる映画(危険!ネタバレ含有)
エマ、勘違い
2026年2月公開の映画『ブゴニア』を観た。先日、WOWOWで放送していたからだ。
監督はあの『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス。主演は同じくエマ・ストーン。
白状すると、『哀れなるものたち』を観たとき、私は「エマ」と聞いてエマ・ワトソン、つまり『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニーのほうだと思い込んでしまった。あの美少女がこんなお姿に……と目が点になり、あとで別人と気づいて、ホッとするやら、ガッカリするやら。
念のため申し上げておくと、本作にはそうしたシーンはない。監督が同じだからといって、それはない。
顔を見比べると全く違うのにね(苦笑)
ところで、もう1人の主役は、マット・デイモンに似ていることで有名なジェシー・プレモンス。でも、マット・デイモンだと勘違いはしなかったぞ。名前が違うんだから当然だけど。
本作の見どころとして、エマ・ストーンとジェシー・プレモンスの演技がある。芝居が上手い。上手いからこそ、なんというか、いろいろ言いたくなる映画なのだ。
あらすじ
この映画、ストーリーの骨子は比較的単純だ。あらすじは、こうだ。
養蜂家のテディ・ガッツ(ジェシー・プレモンス)は、自閉症のいとこドンに協力させ、製薬大手オーキソリス社のCEO、ミシェル・フラー(エマ・ストーン)を誘拐する。テディは、ミシェルが「アンドロメダ星人」と呼ばれる悪質な異星人の一員であると信じ込んでいたのである。テディは、自宅の地下室に監禁したミシェルにある要求をする。
これ以上は書くまい。
評価は高い作品ではある。米アカデミー賞で作品賞を含む4部門でノミネートされたものだ。しかしだ。本作を観た私としては、手放しで褒めちぎることができない。かと言って罵倒もできない。でも、ひとこと言いたい。そこで、このブログなのだ。
以降はネタバレ
ということで、この後は、本作のネタバレを前提に書き散らすので、本作をまだご覧になってない方は読んではいけない。読むことをお薦めしない、ではなく、読んではいけない。とにかくそういう映画なのだ。これから先の読者は『ブゴニア』を見た方ということを前提に書き進める。
観終わった直後の感想は、「なんだ、こりゃ?」だった。役者は誰もがクッソ真面目に演技しているし、撮影も美術も演出も手抜きがない。陰謀論、巨大企業、環境問題、人間不信といった材料を並べて、いかにも重たい社会風刺劇のように物語は進んでいく。
ところが、終盤、エマ・ストーン演じるミシェルが救急車から降り、クローゼットに入ったあたりから一気に様子がおかしくなる。「夢落ちか?」「幻覚か?」「何か別の説明があるのか?」と思っているうちに、まさかの展開へ突入し、そのまま人類は滅亡。思わず「滅びるんかーい!」である。
エンドクレジット後に何かタネ明かしでもあるのかと思えば、何もない。そこでまた、ずっこける。
A級映画だよね?
この映画の妙なところは、途中まで積み上げてきた社会批評や人物劇を、最後の巨大なオチが全部かっ攫っていくことだ。
普通なら、そこまで積み上げたテーマを最後に回収して、観客に「なるほど」と思わせるような落としどころとなるだろう。ところが『ブゴニア』は、むしろその「なるほど」を思い切り拒否するのだ。観客が期待していたマトモな着地点を蹴飛ばして、レトロな宇宙人SFの世界へ飛び込んでしまう。そのギャップがなんとも…なのだ。
終盤に登場するアンドロメダ星人めいた者たちの世界は、どう見ても現代的なハードSFではない。むしろ1950年代の宇宙人映画、あるいは昔の怪奇SF雑誌のようなノリがある。そこまでの映像も演技もA級なのに、着地点だけ見れば「昔のB級SFかよ」という落差。このアンバランスさが実におかしい。言ってみれば、莫大な手間と一流の役者を使って、極上のB級SFを作った映画なのだと思う。しかも、そこで役者たちがふざけるわけではない。全員が最後まで大真面目。だからこそ、映画全体がひとつの巨大なボケにも見えてくる。ここで、ボケるんかーい!となる。でも、笑えない。人類は滅亡するのだから。
だから、観終わった直後の感想は「なんだ、こりゃ?」となる他ないのだ。
前回のブログで書いた「プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争」と真逆だ。あれは、設定を聞いてB級感まるだしのトンデモ映画かと思うとそうでもなかった。比較的低予算の映画であるのは間違いないが、かなり本格派な作りだった。しかし、こちらは、冒頭からしてA級映画なのだ。全てにおいて、それが、最後の最後で、ああなるわけだ。なんとも言えない。
一晩経って…
といった次第で、観終わった直後は、正直、呆れた。「これを観て何を思えというんだ」「これでいいのか」と。
ところが一晩経つと、少し評価が変わってきた。
単なる悪ふざけではなく、あれだけ周到に前振りをして、全員に大真面目な芝居をさせ、最後に全部をひっくり返す。そう考えると、かなり秀逸なブラックジョークではないかと思えてきた。
しかもタイトルの『ブゴニア』は、調べてみると、古代にあった「死んだ牛の死骸から蜂が生まれる」という伝承を指すらしい。死や腐敗のあとから新しい生命が生じるというイメージで、主役の1人テディが養蜂家ということとも重なり、映画のラストともきれいにつながる。人類が滅んだあとに自然が残る。そう考えると、タイトルの時点でオチの方向まで仕込まれていたわけで、ブラックジョークとして、腹立たしいほどよくできている。
本作は、2003年の韓国映画『地球を守れ!』が原作である。調べたところ、現状、映像ソフトも品切れ状態で、配信もされていないようだ。極めて鑑賞し辛い環境にある。調べた限り、内容は本作『ブゴニア』と同じらしい。あのラストはそのままだという。ただ、全体としてB級SFといった作りだという。『ブゴニア』は、そうしたカオスな素材をA級の映像と演技で磨き直したものなのであろう。推測でしかないが。
保存するかどうか
冒頭にWOWOWで放送していたのを観たと書いたが、無論、録画して都合の良い時間に観たのだが、観終わった後、これをブルーレイディスクに焼いて保存するかどうか迷った。この作品を2度観ることはあるのか疑問だったからだ。しかし、前述のように、鑑賞してから一晩明けると考えが変わった。ただ、これだけ妙な存在感がある映画なら、何年か後にもう一度見たくなる可能性はある。そう思って結局、保存することにした。
好きだから保存したというより、妙に引っかかるから保存したという方が近い。
『ブゴニア』は、名作として何度も観たくなる映画かどうかは分からない。しかし、一度観たら忘れにくい映画ではある。そして、しばらく経って思い返したときに、またこう思うのだろう。
「ああ、あの『滅びるんかーい!』の映画か」
その意味では、なかなか大した映画ではある。
