死の川を越えて 第7回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

死の川を越えて 第7回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「今日は、ここまでに致そう。あまり欲張っては消化不良になる。次回は、最近の奇妙な来訪者の話をしよう。この集落に、逆に光が差し込むような話だ。異国人の女とだけ、今は申しておこう。今日は別の女が差し入れた下の里の菓子を食え」

 

 そう言って、万場老人は盆に盛った菓子を勧めた。

「このお菓子は、先日のこずえさんですね」

 正助が言うと、「は、は、は。この辺りには見かけぬ美形であろう。あるいは、お前たちと力を合わせることがあるかも知れぬ。いずれ改めて紹介致そう」

 万場老人の黒い顔から明るい笑い声が流れた。

 

二、賭博の親分

 

 湯の川地区には、その魅力に惹かれて全国から患者が集まったが、現実は厳しかった。そこには地獄の業火にもがく壮絶な人生のドラマがあった。つかの間の享楽に溺れる者も多く、賭博は誰でも手の届く日常の娯楽として大いに盛んであった。賭博には争いが付き物で、それを仕切る人物が現れる。

 湯の川地区の暗黒時代、大川仁助と大門太平という親分が登場した。2人はハンセン病の患者であるが、対照的な性格を持っていた。

 上州は賭博の地である。各地に大小の親分が勢力を競う歴史があった。うわさでは2人は大前田英五郎の流れをくむ者であった。

 

つづく