死の川を越えて 第6回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

死の川を越えて 第6回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「うむ。日本では江戸時代の初めごろに当たる。イギリスで宗教的迫害に遭った人々が北アメリカに逃れて開拓の一歩をしるし、ニューイングランド建設の基礎となった。ピルグリムとは巡礼のことじゃ。話はそれたが、湯の川地区の人たちは、このようにして、自分たちの手でこの地を治めることを進めた。戸長を選び、税金を納めるようになった。このことがどんなに素晴らしいことか、お前らはにわかには分かるまい」

 万場老人は正助の顔をのぞき込むようにして言った。

「先生、多くのハンセン病の者は、家にも村にも居られず、巡礼のように放浪したと聞きます。それを思うと、この集落はハンセン病患者にとって特別の所だという意味がよく分かる気がします」

 こう答えた正助の瞳は輝いていた。

「ハンセン病の患者が自らの手で村をつくり、患者のために自治を行う。こんなことは世界中にないと、わしは信じる。ハンセン病の光と申したのはこのことなのじゃ。問題は、この光が弱くなってきていること。光の意味が分からない人が増えている。光を支えるのはお前たちだ。全国の患者のために頑張るのじゃ」

「光が弱くなっている、光の意味が分からない人が増えているとは、どういうことですか」

 正助が不思議そうに尋ねた。

「うむ。初心忘るべからずと言うではないか。時が経つにつれて、開村の理想を理解しない人が増えてきた。治る見込みがないと思うと、世間の差別の中で生きる望みを失い、神も仏もない、太く短く生きようと考える人が増える。そういう人は、今がよければいいと思って享楽にふける。賭博は当たり前になり、人の道を踏み外す者まで出てくる始末となった」

「先生、分かる気がします。なあ、みんな」

 正助の声に他の2人は大きくうなずいた。

 

つづく