死の川を越えて 第三回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

死の川を越えて 第三回

※土日祝日は、中村紀雄著「死の川を越えて」を連載しています。

 

「えっ。ハンセン病の光とは」

 正助が声を上げて姿勢を正した時である。

「こんばんは」

 若い女の声がした。

「ああ、こずえか。入るがよい」

 万場老人の声と同時に戸が開いて女が姿を現した。

「まあ、お客さま」

 驚いて会釈する顔が、はっとする程美しい。女の美しさは、この家の状況と場違いの故か一層際立って見えた。正助は驚きながらも、これが万場老人を訪ねる噂の女に違いないと思った。

「これはわしの縁者でふもとの里の者じゃ。こずえ、この若者は集落の者で、今日は勉強に来ている。感心なのじゃ。茶でも入れてくれぬか」

「まあ、ご隠居様。早速に」

 こずえと呼ばれた女の視線を受けて、正助はどぎまぎした様子である。正助は出されたお茶を飲み、菓子を食べた。こずえは万場老人の側に膝をそろえて座っている。万場老人はいろりに薪をくべながら語り始めた。

「ハンセン病の患者は、浴客が増える中で湯の里の発展の妨げになるからと、中央部から追われるようにして湯の川地区に移ることになった。患者を分けてこの地区に移すという計画を知った時、患者は従党を組んで役場に押しかけ激しく抗議した。事もあろうに、汚物や死体も捨てるこの湯川の縁に移り住むというのだから当然じゃ。患者たちの怒りと不安、情けなさは、同病のわれらでなければ分からぬことだ」

 

つづく