シベリア強制抑留 望郷の叫び 一六八 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一六八

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

一、 吊し上げられた人たちの復讐・家族を振り切って共産党の大会へ

 

日本人同士の血で血を洗うような陰湿な争いが「民主運動」の実態であった。密告され大衆の前で吊し上げられ土下座して謝罪させられ、その他さまざまな痛めつけを受けた日本人の、この運動を指導した活動家・アクチーヴに対する恨みは大変なものであった。それをただ祖国へ帰りたい一心で耐えた。

ある帰還船が、ソ連を離れ日本海を一路南下していた。今やソ連へ連れ戻される心配はなくなった。

その時、先ほどから鋭い目付きで一方を見詰めていた一人の男が隣の男に目配せをしながら言った。

「そろそろいいだろう」

「うむ」

 もう一人の男は黙ってうなづくと立ち上がった。二人は、隅の方で膝を抱えてうずくまっている男に近づいた。

「おい俺たちを覚えているだろうな」

「あっ」

 男は怯えたような表情で叫んだ。

「ここは日本海だ。ソ連の力も及ばない所だ。もう一度、そこに経って格好いい演説をやってみろ」

「そうだ、ここでやれないというのなら、貴様はソ連の手先だったことになる。さあ、やってみろ。そして、俺たちを吊し上げて土下座させて見ろ」

 二人の男の目は殺気立っていた。先ほどまで騒がしかった船内は静まり返り皆息をのんで見守っている。

つづく