シベリア強制抑留 望郷の叫び 一四六 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一四六

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 請願書    一九五六年、一月三十日

ウォロシーロフ宛             石田三郎

 尊敬する議長閣下、現地機関は、事件発生後一ヶ月以上を経過しているにも拘わらず、私達に対して依然として不当な扱いを継続しております。収容所当局の非人道的取扱いに端を発しているこの事件の最中に重病患者二名が遂に死するに至りました。そのうちの一人は、希望食として、タマゴとリンゴを求めており何回となく、日本人病院関係者及び看護人から請願しても認められず、ハバロフスク地方内務省長官の巡視時に直接請願することにより、その命令によって初めて死の直前に与えられました。しかし、効果なく死去するに至りました。

 更にもう一人は、やはり、唯一の摂取可能食品としてタマゴとリンゴを求めましたが、希望は実現せず死去するに至りました。賢明なる閣下には、この小さなことがらの中から、管理機関の取扱い態度の一端を知って頂けると思います。即ち、これを拡大したものが、労働、衣糧生活その他全般にわたって、管理の中で行われてきたのであります。そして、この悪質な管理の諸事実の集積が我々の生命を脅かすに至り、今回の問題となって爆発したのであります。そして私たち全日本人は、全員が死を決意してこの運動のために結束せねばならなかったのであります。私達は、貴国における軍事俘虜でありますが、私達もやはり人間であります。私達は、人間としての極く普通の取扱いを請願しているのであります。それを現地官憲が最も卑劣な手段で、しかも威嚇的恐喝的手段で圧殺せんと企図する行為は、果たして正しいものでしょうか。

 尊敬する議長閣下、私達全日本人は、閣下の考えておられる人道主義、即ち広汎な世界人民に、今、支持を受けているソ連政府の平和的政策は、決してかくのごとき内容のものでないことを深く信ずるが故に、再度、閣下の直接指示に基づく、解決のための全権を有する公正なる委員会の派遣方を衷心より請願するものであります。

 

つづく