シベリア強制抑留 望郷の叫び 一二八 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一二八

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 

 モスクワ世界経済会議は、冷戦下における世界経済の平和経済の平和的発展を目的とするものであった。高良とみは幸運にもこの会議に出席できることになったわけであるが、本会議場で演説するチャンスも得られたのだ。

 何百人もの各国代表が並ぶ大ホールで、高良とみは満場の相手に迎えられ和服姿で登壇、約四十五分、英語でスピーチした。

 高良とみは、日本の工業生産と貿易の状況、そして失業問題や国民の生活水準などについて説明しながら、日本国民は、過去から教訓を得て平和に生きようと決意していること、だから日本の経済は世界平和のために役立たねばならないこと、平和的東西貿易の必要性および日本は近い将来中国やソ連から食糧を買うことを望んでいることなどを格調高く訴えた。演説が終わると会場には割れんばかりの拍手が起きた。

 このモスクワ経済会議の直後、高良とみはソ連外務省に呼ばれ外務次官と会見する機会を得た。この人は後の外相グロムイコである。グロムイコは、高良とみの訪ソの目的や日本における所属団体などについて詳しく知りたがっていた。東京やワシントンで大きく騒がれている日本の女性国会議員につき興味と疑念を抱くのは当然であったろう。高良とみは、自分はキリスト教徒であること、平和運動を行っていること、そして、ソ連など共産圏諸国を除いた形の平和条約が結ばれたことにより、ソ連に抑留されている同胞がどうなるのか心配でたまらずソ連にやってきたことなどを説明した。グロムイコを正視して英語で堂々と訴えるとみの姿には、国を憂い同胞を思う気迫と信念があふれてい

た。

つづく