シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇一 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

シベリア強制抑留 望郷の叫び 一〇一

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。

 

 シラミの不気味さと凄さは、その繁殖力と生命力である。成虫は零下十度くらいでは動いているし、衣類に産み付けられたタマゴは零下四十度でも死滅しないのだそうだ。身体中シラミに取り付かれ血を吸われ、気が狂うほどの痒さに苦しめられ、挙げ句の果ては、恐ろしい病原菌を移される。実際に島¥ベリアの抑留者の中には、シラミに命を奪われた人もいたのだ。

 多くの抑留者が語るところによれば、身体中に食いついたシラミは、人間が死ぬと、すっとその身体を離れ、隣の温かい身体に移動するという。極限の飢えと寒さに対して死を賭けた対決を迫られた抑留者は、その生き血を吸って繁殖するこの小さな生命体とも対決しなければならなかった。暖炉でシラミを殺す男の背は、この現実を語っていたのであった。

 ここでの作業は伐採であった。伐採は、主に冬の作業である。それは、冬は屋外での他の作業ができないことが多いこと。また、雪を利用して木材の運び出しに便利だからだという。

 作業の現場は、収容所から四十分ほど歩いた所にあった。気温は零下三十度。シベリアの森は果てしなく深い。雪の森は呼吸を止めたように静かで奥は暗かった。青柳さんたちは、白の世界にのみ込まれるような恐怖心を抱いて森に足を踏み入れていった。現場に着くとこまごまと指示がある。例えば、切り倒すのは、直径三十センチ以上の木であること、切り株は地面から三十センチ以下にせよ、そして、切り倒した木は枝を払って、長さ五メートルに切断せよという風に。そして、切った木は、横二メートル高さ二メートルに積み重ね、これが二人分のノルマと定められる。ノルマを達成できないとそれに応じた食事しか与えられないし、厳しい懲罰もある。作業は、正に命がけであった。

 

つづく