人生意気に感ず「手塚治虫の大河漫画“陽だまりの樹”を読む。手塚は見事なロマンで史実を繋ぐ」 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

人生意気に感ず「手塚治虫の大河漫画“陽だまりの樹”を読む。手塚は見事なロマンで史実を繋ぐ」

◇手塚治虫の大河漫画“陽だまりの樹”全7巻を読んだ。読み出したら止まらない。私は鉄腕アトム以来、手塚の大ファンである。漫画の神様と言われるが手塚作品は私の心の世界を豊かにしてくれた。幕末の史実を背景としている。ペリーの黒船来港により朽ちかけた大樹幕府は大改革を迫られる。そこで改革派の人物が次々に登場する。老中阿部正弘、徳川斉昭、勝海舟、西郷隆盛、川路聖謨等々である。

 もう一つの舞台は医師たちの世界だ。そこでは伝統的な漢方医と西洋医学の蘭学者たちとの対立があった。蘭学の中心は諸方洪庵である。洪庵の適塾には福沢諭吉、大村益次郎、橋本左内、大鳥圭介、村田蔵六などがいた。主人公の一人手塚良庵は入塾を許されるが、実在した人物で実は手塚治虫の祖先である。適塾の人々は洪庵の下で牛痘を広めようとしたが、牛痘をやると牛になるという迷信が広まっていた。適塾の人々は西洋医学を追究しようと熱心である。女の腑分けがリアルに描かれる。贓物の真に迫った光景が展開されるのだ。作者の手塚には深い医学の知識があることを窺わせる。

 もう一人の主人公伊武谷万二郎は熱血の幕臣で手塚良庵の親友である。二人は不思議な関わりをもって生きる。万二郎は総領事ハリスの警護役を命ぜられる。下田の玉泉寺に通訳官ヒュースケンと共に陣取ったハリスは頑固で日本の文化を理解しない。そして全てを事なかれで取り繕ろうとする幕府の役人を信用しなかった。直情の万二郎は次第にヒュースケンと心を通わせることになる。ハリスは通商条約締結のため江戸城で将軍に会うと主張して譲らない。幕府の中枢は無能な将軍徳川家定と会わせることは国益を損なうと考えていた。手塚治虫の絵の巧みさに改めて驚く。江戸の町並み、特に江戸城内の描写は緻密で正確である。大広間に整然と居並ぶ日本の重臣たち。無能と言われた将軍とハリスの対面は苦肉の策略で乗り切ることができた。手塚良庵は師洪庵の「医術は人のため」の言葉を信じて医師として立派に生きるが万二郎は同志を募って最後の幕政の革命を試みる。江戸城の明け渡しが成り幕府は倒壊した。万二郎は、徳川は滅びようと徳川のために戦おうと決意し上野の彰義隊に参加する。万二郎の生死は分からない。万二郎のような幕臣は無数にいたに違いない。史実と史実の間を手塚治虫は見事なロマンで繋いで埋めた。最後に「私、手塚治虫は手塚良庵の三代目である」と記す。熱い血に動かされて描いたのだ。(読者に感謝)