シベリア強制抑留 望郷の叫び 七〇
※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載しています。
アクチーヴは、男を促して中央に立たせ、声高に言った。
「皆さん、本日はこの男の真実を暴いて、我々の中から反動を一掃し、一丸となって、我が祖国ソ連同盟の発展のために全力を尽くしてまいりたいと思います」
アクチーヴの発言が終わらないうちに、場内のあちこちから叫び声が上がった。
「異論なし」
「同感、反動を許すな」
同時に、大きな拍手が起きた。
「この男は、元満州国の警察官だったのです。そして日本帝国主義の手先として、罪もない人民を弾圧し、不当な逮捕を繰り返してきました。この男は人民の敵である。ファシズムである」
「そうだ、民主主義の敵だ」
「帰国を許すな」
拳を突き出して、人々は必死に叫ぶ。自分こそ、この吊し上げに積極的に協力していることをアピールするように。
「我々が調査したこの男の罪状のいくつかをここで紹介します」
アクチーヴは、ポケットから取り出した紙片を読み上げ始めた。一つ何々と読み上げるたびに、罵声と怒声が飛び交い会場はどっと湧いた。そして、アクチーヴの弁説は一段と熱を帯びてきた。男は目を閉じ、首を垂れて動かなくなった。
アクチーヴの言葉は、追及に変った。
「それにもかかわらずだ。この男は、過去の経歴を隠し、民主運動も怠っている。これは、過去を反省していない証拠ではないか。このようなことを我々は許すことができるのか」
「絶対にできないぞ」
「土下座して反省しろ」
「やっちまえ」
まさに人民裁判であった。壇上の男は耐えられず、膝を折って座り込み、次に手をついて頭を垂れた。
つづく