シベリア強制抑留 望郷の叫び 二十一
※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載します。
私は、記念碑が壊されたと聞いて、到着した日、ホテルへ向う車中でドミトリーが熱っぽく語っていたことを思い出しながら尋ねた。
「ロシアの人々、ハバロフスクの人々の、日本人に対する感情はどうなんですか」
「それはもう、とても良いのです。私は外務省に長くいて、いろいろな所を回りましたが、その中で、ここほど対日感情がいいところはないと思います。ハバロフスクの皆さんにとって、日本は憧れの的です。そして、日本へ行った方は、皆、すごい、素晴らしい国だと言います。ですから、日本総領事として、ここほどやりがいのある勤務地は他にないと喜んでいます。
同じロシアでも、モスクワは違います。モスクワとかヨーロッパロシアの人は、我々はヨーロッパ人だという意識が強いんですね。そして、日本は遥か彼方の国だと思っています。しかし、ここは、日本が身近ですし、日本とは仲良くやっていきたいという感じがすごく強いように思われます。
実際、ここで、去年一年間、日本文化フェスティバルということで、いろんな文化行事をしました。お茶、お花、書道、津軽三味線、琴、尺八、また、こういう伝統文化のほか、新しいジャズとかいろんな行事をしましたが、どれもすべて満員でした。私も出席しましたが、『総領事、ありがとう、ありがとう、日本の皆さんによろしくお伝え下さい』と、そういう感じでした。こういう点からも対日感情はとてもいいと言えると思います。
「21世紀の日ロの関係はどうあるべきだと思いますか、そして大切な課題は何でしょうか」
「ここの極東ロシアについて申し上げますと、皆さんの目は、北東アジア、日本、中国、韓国に向いています。特に日本の優れた技術と資本によって、経済開発をやっていきたいという気持ちがすごく強いんです。日本にとっても極東ロシアは、石油、ガス、石炭をはじめいろいろな資源が豊富です。そして、対日感情がすごくいい。だから、日本との間には、相互依存的というか、お互いにとって利益になる基盤があると思います。その方向で、ロシアと日本の関係を強化してゆくことが、これからの一番大きな課題です。ところが残念なことがありましてね」
楠本総領事は、またここで言葉を止めて、私の顔を見詰め、そして、塩原、青柳さんの方を見た。
つづく