シベリア強制抑留 望郷の叫び 十一 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

シベリア強制抑留 望郷の叫び 十一

※土日祝日は中村紀雄著「シベリア強制抑留 望郷の叫び」を連載します。

 

 一歩足を踏み入れたプラットホームは殺風景だ。ハバロフスク市内の華やかさとは対照的に地味で荒々しく感じられる。しかし、むしろこの方が、ここが広大で厳しいシベリアの大地の一部であることを感じさせる。また、半世紀前の日本人抑留者を連想させる光景でもある。私は追い立てられる抑留者の姿を想像して、しばし立ち止まっていたが、ロシア語のアナウンスの声で我に返り、ところどころコンクリートの剝げたホームを、前方の列車を目指して進んだ。

 その時、ゴーゴーと音を立てて長い貨車が過ぎていった。あのような貨車に、日本中の抑留者は家畜のように押し込められてシベリアの各地へ送られたのだ。

 ある抑留者の手記によれば、一つの貨車に72人が入れられた。零下30度のシベリアの真っ只中で、火の気はまったくない。熱源は人間の体温と吐く息だけ。身体をぴったりと寄せ合って、間に冷たい空気を入れないようにして必死で耐えた。むしろ、すし詰めだから凍死を免れたという。

 シベリア鉄道はウラジオストクからモスクワまで、およそ9,440キロメートルという世界最長の鉄道である。これがロシアという途方もない巨大に血液を通わせる動脈なのだ。私は、今それに足をかけようとしている。未知の世界の入口に立つような緊張感があった。

 列車の前に立つよとプラットホームが非常に低いと感じられる。大きく足を上げて乗り込むと車内は木製のイスが並んだまことに粗末なものである。後ほどトイレを使ったが、下が見える垂れ流しで、かつての日本の鉄道を思い出させた。

つづく