甦る田中正造 ー死の川に抗してー  第四十三話 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

甦る田中正造 ー死の川に抗してー  第四十三話

土日祝日は、毎日新聞に連載された小説「甦る田中正造」を紹介致します。 

配布された資料には九つの集落につき、それぞれ何戸に配り、回収率何%と、質問項目毎の数字が細かく記されている。

 アンケートの驚きの一例を挙げる。問いは「煙害で迷惑していますか」。そして、求める答えは「迷惑している」、「していない」、他に記入なしの欄もある。九つの集落、本山から上の平まで「迷惑している」が、平均八十七・五%である。上の平では九十五・五%となっている。また「どのような被害を受けていますか」に対しては、「セキをする」と「ゼンソクになっている」が大半となっている。これでは「ヨロケ」が多く出るのは当たり前だと思った。ヨロケとは「よろける」から来る表現で、珪肺病の俗名である。戦前、戦中までの多くの人がこのヨロケで人生を短命で終わった事実を資料から知った。同行者の中には、ガイガー計数機を携帯して、セシウムなどの放射線量を測定している人がいた。その姿を見て、福島第一原発事故を咄嗟に想像した。測定している人も原発事故を念頭に置いて行動しているに違いない。鉱毒の原因である亜硫酸ガスは目に見えない物質であるから科学の知識がない人々は直接の恐れを直ぐには感じなかったであろう。その点は放射能に対する恐れと同様である。

足尾銅山の存在は、確かに日本の近代産業の先がけであり、同時に日本の戦争政策を支えてきた。そこには、国家が無知の人々を犠牲にして日本の産業と戦争政策を進めてきた歴史がある。屈強な山の男たちは本来なら豊かで長い人生を送れた筈である。それがもがき苦しんで短い人生を終えたと思うと大きな怒りが胸に湧くのを覚えた。

つづく