小説「死の川を越えて」 第79話 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

小説「死の川を越えて」 第79話

「その2人が両親でな、聖ルカ病院のキリストの医師も支えています。父親の正助は、シベリアから帰りました。この部落では、このように同病が助け合っております」

「何と言われた、シベリア出兵の帰還兵とは驚きですな。聖ルカ病院のリー女史は同宗の者として存じております」

「同病の方が立派に結婚して、こんな可愛い子を産んで育てておられるとは。シベリアは地獄だと聞きました。御主人の留守を奥さんは立派に守り、子どもを育てたのですね」

「皆さんが助けて下さったお陰でございます」

さやが言った。そして正助が続けた。

「この湯の沢は、ハンセンの手で仲間を助ける仕組みが出来ています。妻が私の留守に子どもを育てられたのもそのお陰です。会長を決め、ハンセンの人が仲間のために旅館を経営し税金も納めます。私は、シベリアでも韓国でもハンセンの集落を見ましたが、この湯の沢のようなところはありません。万場先生が、ここのことをハンセンの光と申しますが、私はこのことを身を以て体験し、納得致しました。韓国、シベリアと外国へ行き、外から見て、この集落の素晴らしさが分かったのでございます」

「うーむ。ハンセンの組織によって仲間を助ける。ハンセンの光ですか。よい話ですな。今まで、ハンセン病の悲惨なことばかり想像してきましたが、認識を改めなくてはなりません。議会の中だけでは良い政策は生まれません。昔の廃娼運動の頃を思い出しました。大切なことは、生の人間を見詰めることですな」

 

※土・日・祝日は、私の小説「死の川を越えて」を掲載しています。