今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第33回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第33回

 突然、ジュンジュンとすぐそばで水しぶきが上がった。敵戦闘機の銃撃である。浮かんでいるだけで精一杯の無抵抗の兵士に情容赦なく滅茶苦茶に銃弾を浴びせ、反転しては繰り返す。海面を埋める程に浮いていた頭が今は回りに2、3名しか見えない。まだ生きている。生きているのが不思議だった。静かになった上空にまた爆音が近づいた。見上げると3機が漂流兵をめがけて突っ込んでくる。一人も残さないぞとばかりに狙いうちをしている。ぐーんと高度を下げてきた。波頭の陰から見上げると機上の敵兵と視線があった。ジュンジュンジュンジュンと銃弾が耳元をかすめて波に突き刺さる。

 漂流を始めて3時間程過ぎた。身体は冷えて歯の根はガチガチ。体力も限界だった。多くの仲間が力尽きて沈んでいった。最後の力を振り絞って、日本はあの方向かと遠くに顔を向けると、水平線の上に立つ雲の中に肉親の顔が現れ、頑張れと励ましている。その時であった。その雲の下から黒い小さな船影が現れ近づいて来る。救援で動いている日本の軍艦であった。ボートが下されて近づいてくる。残っているわずかな力を集中させ波間から手を上げる。地獄に仏とは正にこのことだと思った。

 

※土日祝日は、中村のりお著「今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅―」を連載しています。