今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第32回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅― 第32回

必死で這い出して手を伸ばすと生暖かい物が手に触れた。戦友の死体である。硝煙が鼻を突き呼吸が出来ない。早く脱出しなければ死ぬ。そう思って上甲板に出ようと夢中でハッチまで這うが、爆風で飛んだか階段がない。ぶら下がった縄梯子は下から火がついて燃えている。既に船底まで火がまわり、狂ったように燃え上がる火の勢いは強まるばかり。まるで噴火口のようだ。必死で見まわすと、右手方向に微に外の明りらしい光がある。炎と硝煙の中を這っては転び転んでは這いながら光の方角に進むと、そこは船の横腹で直径2メートル位の穴があいている。そこに爆弾の直撃を受けたのだ。その周辺には何十人という人が折り重なって死んでいる。死体の向こうに海面が見える。早く脱出しなければ船が沈む。益々激しさを増す炎をくぐって海に飛び込んだ。10メートル位夢中で泳いで振り向くと船は火で包まれ、巨大な火柱がマストよりも高く上がり、甲板には多数の将兵の動く姿があった。間もなく船首が海面に沈むと、船尾のスクリューが凄まじい水しぶきを上げて持ち上がり船は逆立ちとなり大きな渦を巻いて黒い海中に没していった。夢中で泳ぐ背ろから渦に巻き込まれる兵士の悲鳴が聞こえた。旭盛丸の最後であった。

 まわりの海上は兵士の頭でいっぱいである。大声で何か判らぬことをわめいている者もおれば、助けてくれと絶叫している者もいる。旭盛丸を呑み込んだ海面は、もうそのことは忘れてしまったかのように黒く静かにうねっていた。

 

 

※土日祝日は、中村のりお著「今、みる地獄の戦場 -ニューギニア慰霊巡拝の旅―」を連載しています。