小説「楫取素彦物語」第200回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

小説「楫取素彦物語」第200回

夫は初め反対しましたが私の心がかたいことを知って認めてくれました。みんな山室軍平様、モルフィ様、救世軍の皆様のお陰でございました。いつかお礼を申し上げねばと思いながら月日が過ぎてしまったのでございます。今回、ブース大将様と山室様が前橋に来られ、孤児院も訪れると聞きこれも神様のお導きと思い胸をときめかしてました。前橋駅へは子どもを連れて行き、このお方が母を救ってくれた人と申し聞かせました。今日、お会い出来ることを心待ちいたしておりました」

 山室はまばたきもせずことの話を聞きはらはらと涙を流した。ブースはいかにも感激した様子で言った。

「ワンダフル、ワンダフル、何と良い話だ。まさに神様の力。救世軍は立派な仕事をしました。私は嬉しい。この話は国に帰って多くの人に伝えることにします」

「モルフィさんにも何とかして、ことさんのことを伝えることにします」

山室は、救世軍の成果を目の前にして感無量であった。

 ことは全てを話し終わって、ほっとしたように明るい笑顔をつくり涙を流した。

 大崎ことは、今は山田姓となって強く生きていた。郭のことは、今となっては新しい人生の大きな財産であった。それはことが謙虚に生きる確かな基盤であった。あの時のことを思えば何でも耐えることが出来た。聖書の勉強を通して書く力、読む力を身につけることが出来た。

 一人息子は一郎といった。ある時、ことは一郎を前に座らせて一冊の古い本を見せて言った。

「これは、私の母からいただいた本で、私が苦しい時、私の心を救った本です。昔、群馬県には楫取素彦様というえらい県令様がおって、人間にとって、心がいかに大切であるかを思って生徒たちのために作った本です。修身説約という道徳の本です。学校にあるかもしれせんが、これは、この母にとって大切な宝。お前にあげるから、大切にして、よく学ぶようにしなさい」

 一郎は素直にうなずいた。

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。