小説「楫取素彦物語」第194回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

小説「楫取素彦物語」第194回

「日本には昔から公娼といって国が認めた売春の制度がありました。そこで働く女はまことに悲惨で正に奴隷でした。明治になり、この制度を廃止する動きが起きました。政府は娼婦を解放すると命令を出しましたが、実情は少しも変わりませんでした。そういう中で、群馬県は全国に先がけて公娼制度を廃止しました。県令と県議会が力を合わせたから出来たのです。県令は楫取素彦様といって現在、貴族院議員をされています。県議会ではキリスト教徒の議員が中心になって意見をまとめました」

 山室がここまで話したとき、じっと耳をすまして聞いていたブース大将が手をあげて話しを制して言った。

「いま、クリスチャンのことを言いましたか。県議会の中にクリスチャンがいて活躍したとは不思議ですね。日本はキリスト教厳禁の国であったのに」

「そうです。新島襄という優れたキリスト教徒がいて、その教えでキリスト教徒になり、県会議員になった人々です。議会の外でもキリスト教徒の青年がいて、廃娼運動の大きな力になりました」

「おお、ワンダフル。私、群馬県に大変興味あります。我が救世軍は、群馬のキリスト教徒と協力すべきですね。群馬県には、キリスト教の拠点はありますか」

 ブース大将は胸まで届く白いヒゲに手をやって尋ねた。

「はい、ブース様、群馬県の都は前橋といい、キリストの教えに基づく女子の学園がございます。廃娼運動に尽くした県会議員も多く参加して創設された共愛学園です。その近くには、キリスト者が設立した孤児院がございます」

「おお、共愛学園と孤児院をキリスト者が中心になって。イギリスに似た光景が目に浮かびます。そして、孤児院にはどのようなチャイルドがおるか」

「はい、大震災で親を失った子、また私たちが郭から救い出した婦人の子などもおります」

「おお、ミゼラブル、可哀そうに。私は、前橋のそれらの所を是非訪ねてみたい」

 

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。