小説「楫取素彦物語」第169回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

小説「楫取素彦物語」第169回

私は、群馬に来て、及ばずながら、これを政治の基本に据えて頑張ったつもりです。諸君が反対派の県議を訪ねて真剣に説得する姿、演説会を開いて熱弁を振るう姿を見て、私は、諸君が松陰の言葉を実践していると思い感動したのです。水沼の青年新井領一郎殿が生糸直輸出の道を開くためニューヨークに渡るとき、私は、この言葉を伝えて励ました。私が前橋を去る日、あの大群衆の前に領一郎が現れた時は本当に驚いた。諸君もあの場面を記憶している者があるだろう」

 楫取がここで言葉を止めると、

「覚えています」

「感激しましたぞう」

 会場から声が上がった。

 それに頷いて楫取は続けた。

「領一郎君は、松陰の短刀と松陰の言葉を胸に頑張ってニューヨークで目的を果たしている。諸君、領一郎君のニューヨークの姿は、松陰の姿と思える。松陰の至誠の言葉は、諸君を動かし、海を越えて領一郎君を動かしました。私は今諸君を前にして、私の群馬の八年間が諸君たち若者の手に受け継がれていると思えて嬉しい。改めて心から礼を言います」

 再び大きな拍手が起きた。会場が一つになって燃えた。楫取の姿が若者の用に見えた。

 

※土日祝日は、中村紀雄著【小説・楫取素彦】を連載しています。