小説「楫取素彦物語」第87回
第二次征長
「長州藩は伏罪使を出頭させよ」
破れた長州に対して幕府はけじめをつけねばならない。しかし、晋作の挙兵によって正義派が復権を果した長州は幕命に従わなかった。幕府は何度も出頭を命じたが長州藩は藩主の病気を理由に応じない。
藩主敬親は四支藩の藩主たちを山口藩庁に集めて協議した。藩主敬親は言った。
「今こそ、我が藩は関が原以来堅持した藩是を果たす時。そのためには我等は一致結束しなければならぬ。藩祖の三本の矢の教えを最大限に生かすべきです。四藩の結束、つまり四本の矢ですぞ」
支藩の藩主は異議なく幕命には応じないことに意見を一致させた。幕府は長州藩に対する指示命令を隣藩広島藩を介して行った。
表面は恭順を装いつつ、長州の臨戦態勢は進んでいた。長州をめぐる環境は大きく変化していた。何と言っても最大の力は西国最大の雄藩薩摩との連携が進んでいたことである。
今や、長州内の空気には意気軒昴たるものがあった。一方、幕府は長州戦で勝ったとはいえ、その後は長州藩に侮辱された状況となり面目は丸潰れであった。このままでは幕府の威厳は地に堕ち幕府の存続に関わる。遂に幕府は第二次長州征伐を諸国に発令した。慶応元年(一八六五)五月のことであった。
伊之助が縦横に活躍する舞台が展開していった。伊之助はこの時小姓役筆頭人に昇格した。
※土日祝日は中村紀雄著「小説 楫取素彦」を連載しています。