随筆「甦る楫取素彦」第192回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

随筆「甦る楫取素彦」第192回

 廃娼のために訴訟を手段として選ぶことは、明治の普通の日本人は思いつかなかった。さすが訴訟先進国の人と感心するが、それ以上に公娼を突き崩したいという強い信念のなせる技なのだ。

 モルフィは訴訟を使う位だから日本の法律を研究していた。モルフィが訴訟を起こした時、ちょうど民法が施行された直後だった。彼は、その90条の利用を思いついた。それは「公の秩序善良の風俗に反する法律行為は無効とす」となっている。太政官布告第295号は民法施行により失効したが、無に帰したのではなく、民法90条に引き継がれたのだ。太政官布告第295号は、娼妓の拘束を禁じたが、娼妓拘束の契約は公序良俗に反する行為に他ならないからである。モルフィは、娼妓営業は、民法90条に反すると考えたのである。明治32年、娼妓佐野ふでの廃業を助けて、名古屋地裁に訴えを起し廃業の目的を達した。これは破天荒の出来事で楼主側のあわてぶりは表現出来ない程であった。翌年、更にモルフィは、藤原さとの廃業事件を助けた。このときは、暴漢に襲われ血に染まって逃げ帰り奥さんは気絶せんばかりであった。そのために、「廃業の自由」は全国に知れ渡った。自由廃業の歴史は血で彩られていたのである。

※土日祝日は中村紀雄著「甦る楫取素彦」を連載しています。

 5月6日からは「小説 楫取素彦」を新連載します。