随筆「甦る楫取素彦」第166回
この報告を受けると更に知事の非を挙げて非難する声が続いた。ある議員は言った「知事は赴任以来次々と書記官を更迭し庁内に軋轢を生じたことは公然の秘密である。庁内は四分五裂だ。だから宜しく冠を脱いで去るべきだ」この議員が更に続けようとすると、番外一番が叫んだ「議長、この議事は府県会規則に違反しているから会議を中止する」と。会議は再び中止となり議員は悲憤し、議場は騒然となった。暮れも押し詰まった明治23年12月29日のことであった。
佐藤知事に激しく面会を求めたのは議員だけではなかった。上毛青年連合会の渡辺金次郎、石嶋良三郎2氏である。この人たちはどうしても知事に会えず5月21日、内事課長に会うことになった。青年たちは、3ヵ所の貸座敷廃止をきめ、7ヵ所はそのまま認めるというのはいかなる理由かと迫った。一方は時機到来で他方は到来しないというのなら、その標準は何か。急激の変動は業者の生活をこわすというので県会はその財産状況を調べたら、廃止の3ヵ所が最も貧弱で他の7ヵ所は皆富裕であるという。それにもかかわらず、3ヵ所の方を廃し、7ヵ所の方を廃しないのはどういう理由か。課長は苦しい答弁をしたが青年たちは納得せず、内務大臣に陳情するつもりだと告げて退庁した。
石嶋らは、5月27日、上京し西郷大臣に面会を求めた。会ってくれねば退かないと決意を示すと、執事は先ず内務省にゆき次官に会うべし、次官がもし面会しなければその時は大臣に取りつごうと述べた。
※土日祝日は中村紀雄著「甦る楫取素彦」を連載しています。