随筆「甦る楫取素彦」第159回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

随筆「甦る楫取素彦」第159回

◇新鑑札の件について

「議会は娼妓営業に新鑑札を許可しないようにと議決したのに知事は規則を改正して15才以上30才未満の者に鑑札を下した、世論に反して、また、議会の建議を採用せずにこのようなことをしたには余程の理由があるだろう、それをききたい」と質問者が発言。

 番外は次のように答えた。「貸座敷業がある以上は娼妓がなければならず、営業を許してある間は取締をなさねばならないので娼妓には新鑑札を下附し、貸座敷は新に許さぬことにした」

 このような議会のやりとりは議会外にも伝わる。議論の正当性と適否は歴然としているから世論は盛り上がり知事への批判が高まっていく。

 このような流れの中でこの議会は再び廃娼の建議を行うのだ。議論百出であったがいくつか注目点があった。それは、それまで廃娼に反対であった者で、考えを変えている者がいること、廃娼を単に風俗浄化や病気予防の理由だけでなく、そのこと自体が悪であることを人民の権利・自由の点から論じる者が現れたこと、そして、廃娼を訴える青年たちの純粋で決然とした活躍が起きたことなどである。

「奴隷のような娼妓の存在を公然と許すことは人民の権利・自由を保護する政治の本分に反する」、「廃娼は正義の論・存娼は不正義の論だ」、「上毛の青年諸氏が廃娼を唱えて各所で演説をなし、なお千百余人の連署で廃娼の建議をなしたのはわが県民のために喜ぶべきことであるばかりでなく、日本全体の公益のため慶賀に耐えない」などの意見が見られた。激しい議論の末に採決が行われ、賛成多数で建議は可決された。この議会では上毛の青年たちの建議が読み上げられた。傍聴席は立錐の余地が無い程の青年で埋まり、可決の瞬間、彼らは思わず万歳を叫んだ。

 佐藤知事の暴挙が、かえって議会と世論を刺激し廃娼が一大運動に発展していく。それは、楫取が播いた種が根を張り勢いよく芽を出し始めたことを示す姿でもあった。正義の芽が若者たちの手に受け継がれていく。


☆私の後継者、萩原ゆうじ君は慶応卒・30歳の公認会計士。知性と信頼をと意気込む。