随筆「甦る楫取素彦」第140回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

随筆「甦る楫取素彦」第140回

この建議案をまとめるにも困難があったことを、碓氷郡原市町出身の県会議員、宮口二郎はその手記で次のように述べている。

「当時の議員はいわゆる君子の風ありて徳義行われ続々賛成者ありたるも、多数議員中には頑固なる者ありて、県令に向ってかくの如きことを建議するは礼を失するものであるとの意見を有する者ありて全会の同意を得ることと能はず建議の文案は出来るもその年は議会に提出するを見合わせたり」

次に審議における各議員の発言状況を見る。

(眞下珂十郎)「およそ娼妓ほど世に害あるものはないのだから諸君、この建議を異議なく議場を通過させ速やかに県令閣下に上申し、これを第一番に我が県で実施し、日本全国に波及させたいものだ。」

(五代政五郎)は、「娼妓を廃絶すれば他にこれに倍する弊害が生ずるから反対だ」と主張。

とくに(野村藤太)は猛烈な反対論を展開した。娼妓廃絶に対する、筋の通った反対論である。

「自分は反対である。娼妓廃絶は表面の理論としてはすこぶる当を得ているが今日の現況からすれば、弊害が続々と出て、公許の時より悪くなる。埼玉県で1度廃娼を実施したことがあるが、密売淫が増え、梅毒、姦通が増え多くの害が生じこれを防ぐことは出来なかった。だから私は、廃娼論は、施政を知らない道徳先生の坐上の論だと考える。生兵法は大けがの基という古い諺があてはまる。私はこの建議が消滅することを望む。そして、このような建議をこの貴重な群馬県会の意見として上申することは甚だよくないと考える」

 永井貞二は徹頭徹尾野村の意見に同意だと発言した。

 野村藤太は自由民権運動に投じ国会開設の請願を行った人である。また、この議会の何年か後にキリスト教に入信した。娼妓廃絶についても、後に賛成に転じている。この時の野村の発言に、湯浅治郎は強く反発した。(読者に感謝)


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