随筆「甦る楫取素彦」第134回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

随筆「甦る楫取素彦」第134回

みだらな勢いが風俗をこわし乱すことは言うまでもないが、中でも娼妓ほど世の教えに酷い害を及ぼすものない。群馬県下の貸座敷業の多いことは隣県の比ではない。だからその害は一郡一村に止まらず県下一般の人民に及んでとどまるところがない。その害を例示すれば、
一、倫理をやぶり風俗を乱す。
二、資産を失わせ生業を台無しにする。
三、少年子弟の前途を誤らせる。
四、父子夫婦の離散を招く。
五、その他盗賊の動機を生じさせ、博奕の原因となる。
など、およそ人間の悪事は全て娼妓貸座敷に根ざさないものはない。故に謹(つつし)んで娼妓廃絶の議を県令閣下に請願す。閣下が速(すみ)やかに私たちの心中を理解しこの害を除き県下の人民の将来が幸になることを願う。これを廃するか廃せざるかはただ閣下の断と不断にかかる。私たちはただ懇請するのみ。(請願人として志村彪三から宮崎有敬まで三四人が連署)
これを受けて、楫取は明治一四年三月二六日、県会常置委員に次の三項目につき諮問した。
一、営業の者は、向う一五ヶ月を期し廃業の事。
二、十五ヶ月内でも廃業の見込みとなれば届ける事。
三、廃業の上で業がなく生活がさしつかえる者は特に一つの郭を設け、他の営業者と混交しない様にして営業致すこと。
常置委員会はこれに答えたが、一、二項は問題なく三項を問題にした。その不適切なることは私たちから見ても一読して明らかである。
 常置委員は、更に一郭を設けて営業を許すというのはかえって転業の方向を迷わせることになり、あるいは最寄の郡村から苦情が出てそれを防ぐことが出来ず到底実行はおぼつかないと考え、「廃業後、事実上生活にさしつかえる者には就産場を設け一年間救養することとし、この間に於いても働いて食える人は速やかに退場させることとする」との考えを示した。(明治一四年一〇月一八日、常置委員)この続きは明治15年3月議会に移る。

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