随筆 『甦る楫取素彦』 第27回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

随筆 『甦る楫取素彦』 第27回

出航の時、暴風雨により船が難破し、彼の荷物から禁制の日本地図や葵の紋付が出てきて大問題となった。彼は追放となり地図を渡した役人高橋景保は獄につながれ、多くの関係者が罰せられた。これがシーボルト事件である。

追放されたシーボルトは後に30年振りに再び長崎の地を踏んだ時、日本に残した実の娘柄本イネを見て、「医学が君の美しい聡明な容貌を磨いたのですね」と言ったと伝えられる。

 江戸時代は泰平といわれる中で、諸矛盾は深刻化しつつあった。その最大の要因は鎖国制度にあった。現代の日本が豊かなのは世界と貿易して利を得るからである。北朝鮮が経済的に行き詰まっているのは他国と付き合えない鎖国のような体制のためだ。

 江戸時代は鎖国政策によって外敵の侵略からは免れた。泰平というのはそれを指す。しかし国内では、収益は増えないのに生活は派手になりとくに武士階級の困窮は時と共に深刻になっていた。参勤交替制により江戸の華かさが地方に波及するのも大きな原因だった。武士は町人に頭を下げて金を借りる一方で、百姓から厳しく搾取したので一揆が頻発するようになった。悪政を天が咎めるように諸国に飢饉が発生した。幕府や諸藩は改革によって切り抜けようとするが、事態は小手先の改革ではどうにもならないところに来ていた。


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