『炎の山河』第五章 地獄の満州 第52回 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

『炎の山河』第五章 地獄の満州 第52回

 昭和51年、ロッキード事件が問題化し、田中角栄が逮捕される。この年、日本の自動車保有台数は三千万台を突破した。

⑪北京を離れるー翼よ、あれが祖国日本の灯だ。再会―

 これが、松井かずが一時帰国するころの日本の姿であった。松井かずたち里帰りの大勢の人々を乗せて、飛行機は北京空港を離陸した。この日をどんなに待ち望んだことか。この日のことを何度夢に見たことであろうか。彼女は、眼下に次第に遠ざかる中国大陸を万感の思いで見つめていた。

 日本から中国に渡るときは船で丸2日もかかった日本海を、今は、飛行機で3時間かそこらで飛び越してしまう。ここにも、彼女は、30年の時のへだたりと時代の変化を感じた。

飛行機は、日本の夜の上空にかかった。時々、窓から光が見える。あれが日本の光だ。とうとう日本に来たのだ。松井かずの胸に、過ぎた日のことが浮かぶ。逃避行の中で手をつなぎあって必死で川を渡ったこと、避難所の生活、ロシア兵の姿、撫順炭坑のこと、一つ一つが瞼に焼きついている光景であった。松井かずは、自分が生きていて、今、日本の上空にいることが不思議に思えた。

☆土・日・祝日は、中村紀雄著『炎の山河』を連載しています。