「上州の山河と共に」 第10回 小学生時代 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

「上州の山河と共に」 第10回 小学生時代

 この他、おもしろブックには、サトウハチローのユーモアもの、久米げん一の「恐怖の仮面」という探偵ものなどが連載されていた。

 上野和仁は、三夜沢の赤城神社の近くにすんでいた。彼は大変なもの知りで、特に歴史上の人物について驚くほど良く知っている。学校の帰り道、荒木又右衛門がどうだとか、宮本武蔵がどうだとか得意気に話してくれる。私にはそれが羨ましかった。ある日、福島浩と共に彼の家を訪ねて、彼の博識の秘密が分かった。おやじの書棚というのがあって、そこには、歴史小説がうず高く積まれていた。彼に頼んで一冊を貸してもらってから、すっかり病み付きになってしまった。上野は、父親の目を盗んでそっとぶ厚い本を私のカバンの中に入れてくれる。急いで家に帰ると、早速読み始め、夜は、ランプの下で母とかわるがわる声を出して夜更けまで読む。子供向けの猿飛佐助、塙団右衛門などから始めて、大人が読む太閤記、宮本武蔵、源平盛衰記など、上野の家の本はすべて読み尽くした。芝基紘や福島浩も、これらの本を盛んに読んでいた。福島、上野、芝、そして私と、学校の帰り道、上野から借りて読んだ本について語り合うのが楽しみであった。

 教育環境について言えば、当時は、のんびりとした時代であった。塾などは勿論ない。学校では割りと真剣に勉強したが、家に帰れば、子守り、麦踏み、あるいは薪拾いをさせられる。家では、趣味の読書に没頭した他は、勉強をした記憶はあまりない。しかし、この読書を通して国語の力、そして国語以外の科目や諸々のことについての判断力が身についたように思われる。特に歴史については、各時代の好きになった特定の人物を通して、その時代を見て来たようなイメージを自分なりに作り上げていた。

 私は、この少年時代の読書から得たものが、その後の私の学問の基礎をなしたと思う。学校の勉強から全くといって良い程に背を向けた中学時代も、読書は唯一の楽しみであり、支えであった。後に定時制高校から東大を受験する事になった時、私の支えとなった漠然とした自信は、このような読書の習慣から得たものの蓄積から生まれたものと思われる。(読者に感謝)