第五章 地獄の満州 | 中村紀雄オフィシャルブログ 「元 県会議員日記・人生フル回転」Powered by Ameba

第五章 地獄の満州


④松井かず、ハルビンから撫順へ逃れる。

駅は、避難してきた人たちでごった返していた。固い石畳の上は、筵や毛布をかぶった人たちが延々と横たわっている。その一人一人の顔をのぞき込むようにしながら、うつろな目をした裸足の少女が歩いている。また、子供を背負い、もう一人の小さな男の子の手を握った女が、中国人らしい男に向かって泣きながら何かを叫んでいる。駅は、建物の内も外も様々な人間模様であふれていた。ここまでまどり着いたが病を得て動けぬ人、肉親とははぐれてさまよう子供、中国人に子供を託す母親など。日本が無条件降伏を受け入れてからかなり経過しているのに、満州に取り残された人々の戦いはまだまだ続くのだった。

 松井かずたちの一団は駅を出て町を通り、撫順炭坑に向かった。既に10月も末で、小雪がちらちら降っていた。人々は、幹部が苦労して手に入れたカマスや筵を身にまとっていた。カマスは袋になっているから、首と腕を出す穴をあければそれで外とう代わりになったし、筵は二つに折って、折り目の所に首を通す穴をあけ、両サイドはひもでしばって外とうにした。身に藁をまとい、中には足にぼろを巻きつけ、その上、様々な荷物を背負ったり引きずったりの異様な集団が、下を向いて黙々と歩いてゆく。まちの人々は、立ち止まって、あるいは窓から身をのり出して、じっと見ていた。これが、今まで権勢を誇り、満州を支配していた日本人の姿か、敗戦国の国民とはこのようなものかと、感慨深くながめた中国人も多かったであろう。

※土・日・祝日は中村著「炎の山河」を連載しています。