僕の上司、32歳、人妻(10) | 夫の知らない妻

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官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

「二人の出会いに乾杯!」


その日、僕は結局中田に夕食まで付き合わされることになった。
 

日比谷近辺にあるタイ料理店に入った僕たちは、シンハーというブランドのビールで乾杯した。
 

「やめてくれよ、二人の出会いに、ってのは」
 

「だって。小沢さんと私が同じ会社、同じ部で出会うなんて、奇跡としかいいようがないですよ、この広い世界で」


「できれば会いたくなかったけどな、俺は」
 

「何か言いました?」


「いや、別に」
 

昼間、散々走らされた僕には、初めて飲むタイのビールがとても美味しく感じられた。
 

「私、このお店、一度、デートで来てみたかったんです」


「だから、これはデートなんかじゃなくてだな・・・・」

 

「今日は楽しかったでしょ、小沢さんも?」


どうやら彼女もビールが好きなようだ。
 

おいしそうに飲みながら、テーブルの反対側から僕を見つめてくる。
 

「たまにはいいでしょ、こんな風に公園で遊びまくる週末も」
 

散々走らされたけど、確かにそのときの僕は、久しぶりに心地いい気分になっていた。
 

普段はアパートで過ごす週末だけど、たまにはこんな風に体を動かすのも悪くない。
 

それが、この中田絹沙と一緒であるべきかどうかは別問題だけど・・・・。
 

「まあね。でも明日の筋肉痛がこわいけど」
 

僕は二杯目のビールを飲みながら、素直に答えた。
 

「筋肉痛にはパクチーですよ、小沢さん」
 

「何だよ、それ」
 

「騙されたと思って。ねえ、今夜はたくさん頼みましょうよ」
 

彼女の言うがまま、僕たちは何皿ものディッシュをオーダーした。
 

タイ料理なんか、トムヤムクンくらいしか知らない僕。
 

「小沢さん、辛いの大丈夫ですか?」
 

「たぶん大丈夫だけど」
 

「そう来なくっちゃ」
 

次々に運ばれてくるタイ料理。
 

最初に来た春雨サラダ、おいしいのだが、これが見た目からは想像できないくらい辛い。
 

「ふふふ、ヤムウンセンって言うんです、これ。凄く美味しいですね」
 

春巻き、野菜炒め、トムヤムクン、カレー風味の蟹、そしてグリーンカレー。
 

辛い料理の連発に、その夜、僕はいつも以上にビールを飲んだ。
 

そして、後輩女性から連発される質問が、僕のビールを飲むペースに拍車をかけた。
 

「ねえ小沢さん、一つ聞いてもいいですか?」
 

「なんだよ」
 

「小沢さんって彼女いるんですか?」
 

トムヤムクンを食べていた僕は、彼女の質問に激しくせき込んだ。
 

「いるんですか?」
 

どういうわけか、下着だけで肢体を隠してベッドで寝そべる課長の姿が脳裏に浮かぶ。

 

小沢くん、駄目よ、私たちのことを中田さんにバラしちゃ・・・・
 

おい、何で課長が彼女なんだよ、お前の。
 

冷静なもう一人の僕の突っ込みにうなずきながら、僕は中田に答える。
 

「いないよ」
 

「ふーん、そうなんだ。てっきりいるんだろうなって思ってました」
 

表情を変えることなく、淡々と食事を進めながら僕を見つめてくる中田絹沙。
 

「大学時代とかにはいたんでしょう?」
 

「まあそれなりに」
 

「なんで別れちゃったんですか?」
 

後輩に格好つけようと、適当な出まかせを口にした先輩社員に、彼女が畳みかけてくる。
 

「お、おい、そんな風に見るなよ、俺を」
 

まるで課長に追い詰められているような気分になり、僕はビールを喉に流し込んだ。
 

僕の人生、交際相手と呼べるような女の子はこれまで一人もいなかった。
 

女の子も含めてグループでわいわいやるのが好きだった僕だけど、結局、そういう出会いは一度もなかったのだ。
 

「今、好きな人いないんですか?」
 

再び、僕の脳裏に課長の姿が浮かぶ。
 

ブラのホックに手を回しながら、誘うように僕にウインクしてくる課長・・・・。
 

小沢くん、ねえ、ブラ取るの手伝って・・・・、早く・・・・。

 

「いないよ、そんなの」


と僕が言う前に、中田が言った。
 

「課長ですよね」
 

「は?」
 

「課長のこと、好きで好きでたまらないんでしょう、小沢さんは」
 

不機嫌そうな表情を浮かべたあと、彼女はまた目を輝かせる。
 

「ねえ、小沢さん、知ってますか、課長の結婚相手」
 

「えっ、お前知ってるのか?!」
 

思わず声をあげた僕に、周囲のテーブルにいた他の客たちが一斉に目を向けた。