僕の上司、32歳、人妻(8) | 夫の知らない妻

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官能小説「他人に抱かれる妻」別館です。

遠くから中田絹沙が小走りでこちらに近寄ってくる。

 

芝生に寝転びながら、僕はぼんやりと目を開き、一年下の女性社員が嬉しそうに近づいてくる姿を見つめた。

 

そして、無意識のうちに、彼女に背を向けるように寝返りを打った。

 

雲一つ見当たらない青空、すぐそばに感じられる海の気配。

 

眩しい太陽から逃げるように、再び目を閉じる僕。

 

「お待たせ!」

 

近づいてきた足音、僕の背を叩く手、そして、はしゃぐような彼女の声。

 

そんなものを全て無視し、僕は目を閉じ続けた。

 

「小沢さんってば。ねえ・・・、寝ちゃったんですか?」

 

激しく体を揺すられ、僕はそれ以上、目を閉じているわけにはいかなかった。

 

「寝てないよ。起きてるよ」

 

「お待たせしました」

 

「いや、別に待ってないけど。なんならもっとゆっくりでもよかったよ」

 

「んもう・・・、いけずぅ〜」

 

「まる子か、お前は」

 

公園入り口付近にある売店から戻ってきた彼女は、その手にペットボトルを2本持っていた。

 

「小沢さん、はい、これ。どっちがいいですか?」

 

「どっちでもいいよ、俺は」

 

「あ、そう。じゃあ、私はこれ」

 

土曜日の午後。

 

葛西臨海公園の芝生広場は、家族連れや学生のグループ、そしてカップルで賑わっていた。

 

なんでこんなとこにいるんだろうな・・・。

 

僕はそんなことを思いながら、彼女と並んで芝生に座り、マスカットサイダーをゆっくりと飲んだ。

 

「明日の土曜日、一日付き合ってください」

 

昨夜、そんなLINEメッセージを一方的に僕に送ってきた中田絹沙。

 

地方出身の僕は、アパートに一人暮らし。

 

彼女がいるわけでもなく、週末はたいていはのんびり過ごしていた。

 

そう、週末は僕にとって貴重な休息タイムなのだ。

 

「小沢くん、まだやってないの、これ?」

 

「ねえ、どうなってるのよ、こことの商品追加交渉? アップデートがまるでないんだけど」

 

美しくも、鬼のように厳しい人妻課長。

 

毎日武川課長に追い詰められている僕には、週末の自由な時間が唯一息をつけるときだった。

 

だが、今日は違う。

 

わけのわからないまま、僕は「不思議ちゃん」とオフィスで評判の新人、中田絹沙のマイペースに巻き込まれ、土曜日を彼女と過ごすことになった。

 

「付き合うのはいいけどさ、どこに行けばいいんだい?」

 

この日、東京駅で待ち合わせした彼女と会うなり、僕はそう聞いた。

 

「葛西にでも行きませんか?」

 

「葛西?」

 

「公園。私、一度デートで行ってみたかったんです、広〜い芝生がある公園に」

 

「で、デートってお前なあ・・・」

 

汗ばむほどの陽光を感じながら、僕は周囲で遊ぶ家族連れの姿を見つめた。

 

こんな風に週末に公園に来るなんて、いったいいつ以来だろうな。

 

しかも女の子と一緒にだなんて。

 

高校、そして大学時代、僕はそれなりに楽しく過ごしてきたが、特定の女の子と交際することはほとんどなかった。

 

「小沢さん」

 

「えっ?」

 

「何考えてるんですか?」

 

「何って別に」

 

座ったまま、僕に擦り寄ってくる中田は、まるで母親のような視線で僕をまじまじと見つめた。

 

「な、なんだよ、お前、気持ち悪いな」

 

「ひ、ひどい・・・・」

 

言葉とは裏腹に、彼女はすべてわかっているとでもいうような顔つきで、笑みを浮かべる。

 

「課長のことでしょう」

 

「な、なんだよ、急に」

 

「小沢さん。課長のこと、考えてたんでしょう」

 

「ち、違うよ」

 

彼女の追求に、僕は思わず顔を赤らめ、マスカットサイダーをがぶ飲みした。

 

「好きなんですか?」

 

口にした液体を吐き出してしまうほどに、僕は思わず咳き込んだ。

 

「課長のこと、好きなんでしょう、小沢さん」

 

「お前、何バカなこと言ってるんだよ」

 

ますます顔を赤くしてしまう僕。

 

「小沢さん、知ってますか?」

 

「な、何を」

 

「小沢さん、い〜っつも課長のこと見つめてるってこと」

 

「えっ?」

 

「オフィスでいつも課長のこと見つめて。いったい、何想像してるんですか? どうせ、エッチなこと想像してるんでしょう、小沢さん」

 

「お、おい・・・、濡れ衣だぞ、そんなの・・・・」

 

犯罪を指摘された容疑者がするような言い訳を口にしながら、僕は「不思議ちゃん」に見事に事実を見透かされていることを知った。

 

全身から色気を溢れさせ、スタイル抜群の課長。

 

盛り上がった胸、そして熟れた太腿を密かに見つめ、僕はいつも課長の服を脱がすことを想像していた。

 

「駄目っ、小沢くん、こんなところで・・・・」

 

「我慢できないんです、課長・・・・」

 

「いやんっ・・・・、駄目っ、そこは・・・・、あっ・・・・、あんっ・・・・」

 

傍に座る中田が、軽蔑するように目を細めてじっと見つめていることに、僕はしばらく気づかなかった。

 

「小沢さん」

 

「は、はい?」

 

「人妻ですよ、課長」

 

「知ってるさ」

 

「無駄ですからね、課長を狙っても」

 

「狙うわけないだろ、課長を。あんな怖い人」

 

「ふふふ、それもそうですね」

 

生茶をおいしそうに飲んだ後、中田が笑顔を浮かべて立ち上がる。

 

「ねえ、小沢さん、これ、一緒にやりましょうよ」

 

バッグから取り出したものを僕に見せ、準備体操するかのように彼女は肢体を動かした。

 

それは、白いフリスビーだった。

 

子供の頃、僕が少し遊んだことのあるそれと比較して、かなり大きなサイズの円盤だ。

 

「フリスビー?」

 

「違います。フライングディスクです」

 

「フライングディスク・・・」

 

「私、大学でこれやってたんです。ほら、座ってないで早く立ってください」

 

僕の手を引いて立ち上がらせた彼女は、それを持ったまま、数メートル向こうに歩いて行った。

 

そのとき、僕は気づいた。

 

中田絹沙もまた、よく見ると、なかなか魅力的なスタイルの女性であることに。