もう何度目になるだろう。
慶次にとって、この天井裏に忍び込むことは、もはや日課のようになってしまった。
疾風を誘うでもなくただ一人で、彼は深夜の静寂の中、漆黒の影となってそこに身を潜める。
下界で繰り広げられる男女の抱擁、それが行われぬ夜は一度もなかった。
合意など存在しない、ただ欲情に狂った男が人妻の肉体を好き放題にいたぶる時間。
毎晩、東の空が白々と明けてくる時間まで、隆景は気に入りの妾と激しく愛し合った。
島で生まれ育った人妻が隆景の女となり、既に数年が経過している。
今もなお、彼女は夫とは別の男に抱かれることに、毎晩激しく抵抗していた。
だが、それを隆景は喜んだ。
「桔梗、もっと抗うのじゃ。わしはそのほうが興奮する」
己の欲情を驚異的に持続させ、彼は時間をかけて人妻をいじめ、そしていつも屈服させた。
そして、今夜もまた・・・・。
慶次は硬くなった自分のものを曝け出し、きつく握りしめながら下方から漏れる光の穴に視線を注いだ。
「桔梗、どうだ、いいんだろう」
「駄目っ・・・・、殿・・・・、なりませぬ・・・・」
全ての服を脱がされた人妻が、布団の上で男に深々と貫かれている。
美脚を大胆に広げ、男の腰を迎え入れている桔梗。
その指先が布団の上で震えるのは、屈辱のせいか、それとも知ってしまった快楽がそうさせているのか。
腰を振りながら、隆景はなまめかしい曲線を描く人妻の体を存分に撫で回す。
その口が彼女の胸元に吸い付き、巧みに舌を動かした。
「あんっ・・・・」
瞳を閉じ、思わず甘い息を吐いてしまう桔梗。
「すっかり感じやすくなったな、桔梗」
「違います・・・・」
「自分で腰を振ってみろ・・・・、そうだ・・・・、気持ちよさそうな顔じゃないか・・・・」
「あっ・・・・、あっ・・・・、あんっ・・・・」
布団を濡らすほどにたっぷりと潤った人妻の大切な箇所で、男の興奮が荒々しく往復する。
「あっ・・・、あっ・・・、あっ・・・」
次第に声を短くし、桔梗は耐えきれない風に首を振った。
桔梗、気持ちいいのか、そんな男にされて・・・・
複雑な感情が慶次を包む。
島の宝を本土の他人に奪われてしまったかのような、空虚な感情。
彼女は初恋の女性だった。
最近になって、慶次はそれに気づいた。
彼女が隆景に強引に奪われ、その腕の中で何度も絶頂に達する姿を見たときに・・・・。
「桔梗、いくぞ」
狂ったように腰を動かしながら、汗まみれの隆景が桔梗にささやく。
快感の坂道を一気に駆け上がっていく人妻は、もはや言葉を発することができない。
自分で腰を振るように肢体をくねらせながら、彼女はただ喘ぎ声を漏らした。
「あっ・・・、あっ・・・、ああっ、いっ・・・・」
最後の瞬間、人妻の両脚が男を欲しがるように、強く彼の腰を挟みつけた。
「ああんっ!」
桔梗の嬌声に呼応するかのように、隆景が深々と腰を押し出したまま、全身をびくびくっと震わせる。
息を殺し、二人を見つめ続ける慶次。
ハアハアという男女の乱れた息、そして快感を確かめ合うように唇を吸い合う湿った音が、下方で響く。
「桔梗、もう離さぬぞ」
ここ最近、隆景は行為の後、そんな言葉を繰り返しささやくようになった。
慶次は、その言葉の意味を深く考えてはいなかった。
だが、今夜、彼はそれを知ることになる。
「桔梗、そろそろこの島を離れるときが来たようじゃ」
「えっ?」
絶頂の空間を漂っていた人妻が、覚醒したように声をあげ、男を見つめる。
「何年もここにいたが、いよいよ本土に戻るときが来た」
「殿、それは・・・・」
「兄上の家中が混乱しておる。これはこちらの工作が効いたせいでもあるが」
「・・・・」
「今なら、兄者から国を奪還できる。本土に戻り、一気に攻勢に出るときが来たのじゃ」
一気に緊張に包まれていく慶次。
島を離れるだと・・・・?
「殿、では私は・・・・」
桔梗がわずかな望みを漂わせながら、隆景にすがるようにささやいた。
「言っただろう。お前は二度と離さぬ」
「・・・・」
「一緒に行くのじゃ、桔梗。この島とは永久に別れるのじゃ」
慶次は気づいた。
隆景の冷酷な言葉を浴びた瞬間、桔梗の瞳に絶望と、確かな決意の光がともったことに。