「桔梗、いくぜ・・・・」
よだれを垂らさんばかりの表情で、慶次は自身の腰を一気に桔梗の秘密に突き立てようとした。
桔梗が唇を噛み、全てを覚悟した時。
「ううっ・・・・・・」
上にいる慶次が、突然後頭部を抑え、傍の地面に倒れ込んだ。
こぶしくらいの大きさの固い石が、表面に血を滲ませて転がっている。
「桔梗、大丈夫か!」
すんでのところで慶次の毒牙から逃げることができた桔梗は、素早く立ち上がり、石が飛んできた方向を見た。
「疾風!」
腹ばいでうごめく慶次に唾を吐き、桔梗は素早く服を着て疾風のもとに走り寄った。
胸元に飛び込み、涙で濡れた顔を埋める。
「疾風、助けにきてくれたのね・・・・」
「大丈夫か、桔梗」
「危ないところだったよ・・・・。もう、遅いんだから・・・・」
「すまん。波が高くてな、今日は」
桔梗を背後に隠し、疾風は慶次にゆっくり近づいた。
「慶次、島を出ていくんだろう、お前」
這ったままで頭を押さえつけている慶次は、しかし、返事をしようとしない。
「おい、慶次、大丈夫か・・・・」
しゃがみ込んだ疾風が慶次に腕を伸ばしたときだった。
「うおお!!」
咆哮をあげて立ち上がった慶次が疾風に飛びかかった。
「慶次、てめえ・・・・」
格闘。
組み合った二人が地面に転がり、互いを激しく殴打しあう。
「疾風!」
立ち尽くしたまま、桔梗が叫んだ。
豪雨が地面を泥にし、二人をずぶ濡れにしていく。
疾風の腕をへし折る勢いで曲げ、慶次が激しい頭突きを彼の顔面に与える。
「ううっ・・・・・」
ふらついた疾風に、慶次はなおも襲いかかる。
「渡さねえ・・・・、疾風、桔梗はお前に渡さないぜ・・・・・」
何度も頭突きを繰り返され、組み伏せられた疾風の勢いが次第に弱まっていく。
「疾風!」
桔梗が悲鳴にも似た声をあげる。
「疾風、ぶっ殺してやる・・・・」
大きな岩を手にし、慶次が疾風の顔面に振り下ろそうとする。
「やめて、慶次!」
「うるせえ、桔梗! 黙ってろ!」
笑みを浮かべながら、慶次が岩を持ち上げた。
そのとき、疾風の右足が後方から跳ね上がり、慶次の後頭部を蹴り上げた。
「うぎゃっ・・・・」
そこは石をぶつけられて既に出血していた箇所だ。
力を失って倒れ込む慶次に、ふらつく疾風が逆襲する。
男の腹にまたがり、何度も殴打を与える。
「立ちやがれ、慶次」
もはや反撃できない慶次の巨体を引き上げ、疾風は男の片足を持ち上げた。
「は、疾風、何する気だ・・・・・」
「へへへ・・・・、桔梗を襲った罰だ・・・・」
慶次の片足を抱えあげたまま、疾風は大木のそばにある茂みに動いた。
片足で立たせた慶次をある場所で止め、不敵な笑みを浮かべる疾風。
背後にある地面を見つめる慶次。
そこには、槍のように先端を鋭く尖らせた低く細い木が地面から伸びていた。
そこに背中から押し倒されればどうなるか、慶次はそれを想像し、息を呑んだ。
「疾風、お前・・・・」
泥まみれの二人の男が、ただ静かに見つめ合う。
・・・・・
慶次が笑みを浮かべた。
そして。
豪雨の中、疾風が叫び声をあげた。