「えっ、海外駐在?!」
その知らせを聞いた妻は、舞い上がった様子で声を弾ませた。
海外旅行が好きな彼女にとって、駐在員の妻になることはある意味で夢だったのだろう。
「でも行き先がとんでもない場所だぜ」
「どこなの?」
「アフリカのここだよ」
私は妻に国名を教えた。
子供の頃、社会の授業で地図帳を眺めていたときの記憶が一瞬よぎった。
名前は聞いたことがあるが、正確にはそれがどこにあるのかわからない。
そんな国なのだ。
だが、妻は困惑する様子を見せることなく、明るく答えた。
「面白そうじゃない。それに、他の駐在の方もいらっしゃるんでしょう?」
「そうだな。皆、単身者だと思うけど、3人か4人くらいいるはずだ」
「だったら大丈夫よ」
「不安はないのかい?」
「全然。早く行きたいわ。いろんなことが経験できそうだもの」
3ヶ月後、私たち夫婦は日本を出発し、世界の果てとも言える国に向かった。
そこにどんな結末が待っているのかも知らぬまま。