課長とホテルに・・・・
まだ童貞の僕が、こんな色っぽくてモデルみたいなスタイルの人妻上司と一緒に・・・・
カウンターで目を閉じ、いつしか笑みを浮かべる僕。
小沢くん、見て、これが女の人の体よ・・・・
か、課長・・・・
生まれたままの姿で、課長は大胆に美脚を・・・・
ねえ、小沢くん、もう、こんなになっちゃってるわ・・・・
駄目です、僕・・・・
ふふふ、可愛いのね、ほら、あなたも早く脱いで・・・・
ま、待ってください、課長、そんなところを触っちゃ・・・・
凄いのね、小沢君、これ、夫のなんかより大きいわよ・・・・
そして課長は僕のものを唇で・・・・
「嘘よ」
「は?」
「嘘に決まってるでしょ、ホテルに行くなんて」
会計を済ませた課長は、いつも以上に濃厚な妄想に浸っていた僕にクールに言い放った。
「ほら、行くわよ」
「い、行くって、どこにですか? なんだかんだ言ってやっぱりホテルに・・・・」
一縷の望みにかけた僕をあざ笑うように、課長はクールな表情を一転させて笑みを浮かべた。
「違うわよ。別の場所」
「別の場所?」
「二次会に付き合ってもらうから。さあ、早くして」
課長に促され、僕は慌ただしく椅子から立ち上がった。
かなりビールを飲んだけど、結構酒には強い僕はまだ余裕で普通に歩けた。
課長もまた、酔った雰囲気はまるでない。
「ヒロさん、ご馳走様。また来るわね」
「また彼と一緒に来てよ」
ヒロさんがカウンターの向こうから、僕に目配せをして笑う。
「そのつもり。彼、私のボーイフレンドなんだから」
ボーイフレンドという単語に、お茶だけで粘っていたジョージクルーニー爺が僕を睨みつけてくる。
「FU*K!!」
隣にいるテイラースイフト嬢がハンドバッグを彼の頭に叩きつけた。
「まだ降ってるわね」
店の外に出た課長が、星の見えない空を見上げてつぶやく。
「小沢くん、傘持ってるの?」
「えっ? は、はい・・・」
「よかった。じゃあ相合傘で行きましょう」
濡れることに構わず、僕は課長に傘を差し出した。
「ありがと」
西麻布の狭い路地を、課長と並んで同じ傘の下で歩く僕。
「いつ以来かしら、こんな風に男の人と一緒の傘で歩くなんて」
160センチ台後半と長身の課長、そして175センチの僕。
課長が傘を持つ僕の手に自分の手を重ねてくる。
「か、課長・・・・」
「ふふふ、私たち、恋人同士みたいね」
「は、はい」
「ほんとにこのままホテル行こっか」
からかうような課長に対し、僕はもう「なんも言えねえ」状態で、言葉を返すことができなかった。
指を絡めてくる課長の手は、どこか冷たく、寂しげに感じられた。
中田絹沙の手はどんな感触なんだろう。
あの夜、腕にしがみついてきた彼女の肢体の感触が、どういうわけか僕の体に刻み込まれている。
「タクシーに乗るわよ」
大通りに出た課長は、慣れた様子で緑色の東京無線のタクシーを捕まえた。
「すみません、近くなんですけど、赤坂方面に行ってもらえますか」
「構いませんよ」
美人すぎる女性客の言葉に、中年の髪が薄い運転手が首を振るはずはない。
「課長、二次会って、いったい・・・・」
午後10時を回った金曜日、雨で濡れる東京都心。
僕は不安と楽しみを交錯させながら、隣に座る課長に聞いた。
「今夜は踊りたいの」
「お、お、踊るんですか?」
「思い切り踊って汗をかいて、全て忘れたい気分なのよ、今夜は」
傘の中で僕の手を握りしめていた課長の手は、それが夢であったかのように、既に僕から離れている。
夜の六本木通りを見つめる課長の瞳が寂しげに光った。