父は、ものかきです。

いつも、手帳とペンを持ち歩いています。

そして、寝ている時も腕時計をしています。

 

何時何分目が覚めた

妻も長男も寝ていた

何時何分、トイレに行った

温度〇度、天気は曇り

 

他の人から見ると、ただの記録かも知れないけれど

自分の行動、一つ一つを書き留めています。

 

今日も、午後からはずっと

ベッドで寝ていました。

だのに、トイレにおきてくるたびに、

メモをしていました。

ほんの少しの昼食だったのに

メモをしていました。

 

そこには、全く気持ちの言葉は見当たりません

ただただ、行動の記録のように

私には見えます。

そこには、様々な心の動きがあるはずなのに

それは文字には出ていません

 

そして、そのメモは、

毎日パソコンで作成している自分史に

書き写されます。

メモが文章になっていきます。

 

自分史は、ずいぶん長い期間にわたって

書いています。

 

しかし、ここのところ

ずっと、座っているだけで

書いている素振りがないので、

「手伝おうか」というと

パソコンのスイッチを入れてくれました。

 

父の自分史は2月22日でとまっていました。

 

「言ってくれたら書いてあげるよ」って

言ったら

「そうする」って言ったけれど

そのまま、再び目を閉じていきます

待ったけれども、

声をかけたけれども、

パソコンの横で、こたつに座ったまま

あたまをもたげて、目を閉じてしまいます。

 

話せるなら話してほしい

今の気持ち

これからの妻や子どもたちへの思い

自分の最後の時間のこと

私が代わりにうってあげるのに

ずっと下を向いたまま

話してはくれませんでした。