初心に帰る | チェリスト山口徳花のブログ

チェリスト山口徳花のブログ

チェリスト&チェロ講師/ベルリン&デュッセルドルフ/Duo Axia(スタジオピオティータ・レジデントアーティスト)/東京藝大・ベルリン芸大卒/

こんばんは。チェリストの山口徳花です。


前回の記事で触れたお仕事を終えた翌日の8月15日に、オーストリアのウィーンの北90kmほどの場所に位置するホルンという町に移動して、歴史ある音楽祭「Allegro vivo」の講習会に参加しました。


この講習会に参加するのはなんと4回目。
ここまでくると、「ただいま〜」と言いたくなります。笑


音楽家以外の方には、音楽業界での講習会というものに対してあまりピンと来ないかもしれないので、少し説明します。

講習会とは、端的に言うと「公開レッスン」のことです。

色んな講習会がありますが、大体はこんな感じ。

・都市部の喧騒から離れた町や村で一週間程度開催。(リゾート地でリッチに開催される場合も。)
・様々な楽器の有名教授陣が各国から招かれる。
・レッスンを受けたい学生や若手の演奏家が希望の教授のクラスに申し込み、書類審査や音源審査などを経て参加が許可される(単に定員に対して先着順の場合もあり)。
・教授1人あたり受講者は10人程度のことが多い。
・1週間に3-4回、集中的にレッスンを受けられる。レッスンは公開なので、クラス内の他の受講生はもちろん、他のクラスの受講生や一般の人も自由に聴講して良いことが多い。
・時々、複数の教授にレッスンを受けられる講習会もある。
・成果発表の場として、全員、あるいは選抜された受講生にコンサートで演奏する機会が与えられる。
・宿泊場所は講習会側が斡旋する場合が多く、ホテルなどの宿泊施設だけでなくホームステイを選べることもある。
・基本的には受講側に参加費が発生。(ヨーロッパでは宿泊費込みで、一週間あたり4万円〜12万円くらいが相場?日本はその1.5倍くらいかな?適当な肌感覚ですが。)権威ある一部の講習会では受講料が免除、あるいはギャラが発生する場合も稀にある。

・これから音大で学びたい若い人にとっては、教授と知り合い自分をアピールするための貴重な場でもある。

・受講生は世界各国から来ている場合が多く、多くの時間を共にするので、国際的な友達ができる機会でもある。(たまに恋人を作るために来てるのか?と思うような人も…笑い泣き



…色々挙げていたら結構長くなってしまいました。

講習会とは?というのがなんとなく伝わったでしょうか?



Allegro vivoは昨年はコロナ禍で半分の規模での開催となったため、私がお世話になっているグレゴール ・ホルシュ先生のクラスは無くなってしまい、そもそも私自身がヨーロッパに入国できない状態だったので、先生に会うのは実に1年9ヶ月くらいぶり…‼︎


やっと再会できた時は感無量でした。



ホルシュ先生のレッスンが行われていた部屋。

コロナ禍では世界中の演奏会がストップして音楽家達も大きなダメージを受けましたが、先生の演奏は全くそんなことは感じさせず、ますます黄金のような輝きとベルベットのような艶のある音色が空間を満たしていきます…。



講師陣のコンサートが開催されたAltenburgという場所の「図書館」。美しい…


思えば、4年前に先生は大病をご経験されて、その時は半年くらいはチェロを弾けなかったはずです。(あの時は毎日本気で先生の快復を祈っていました。)

ですが、その後見事に快復され、全くブランクを感じさせないどころかますますパワーアップされたように感じました。


それを思えば、コロナ禍でモチベーションを失うとか手が鈍るとか、そんなことあるわけないですよね

超一流の人が超一流であり続けられるのにはちゃんと理由があるんですよね。


それに対して私自身は、今回は曲を万全に準備してきたとは言えない状態でした。

仕事や事務作業などでどれだけ忙しくても、妥協することなく自分の演奏を高め続ける…というのが、ずっと前から私が自分自身に誓っていることなのですが、精一杯やっていたつもりでも「つもり」になっていただけだな…と反省させられることが多々ありました。

ひとりよがりになっていた部分もたくさんあったし、あとは物理的に練習時間が満足にとれていないということに対して必要以上に不安になってしまったりとか。


今回は主にベートーヴェンの1番のソナタを持っていったのですが、私がソナタ(ピアノとチェロの二重奏)を演奏する時にいつも大切にしていることは、ピアノパート含めて暗譜するくらいに楽譜を読み込みながら一音一音のあり方を検討していくことです。

これまでは充分に計画的に時間をかけてその作業をすることができていたのでなんとか成り立っていたのですが、それが物理的に難しい場合に
・何を優先させるのか
・またはどのようなメンタルの持ち方でいるのか
・もしくはどう工夫して時間を捻出するのか
というあたりがまだ自分の中でしっかり定まっていませんでした。

ホルシュ先生はとてつもなく人格者なので、きっと私の状況を理解・配慮してくださっていて「とてもよく準備してきた」と言ってくださり、最終日のコンサートでの演奏も評価してくださったのですが、先生のその優しさと自分の不甲斐なさで、コンサート後のお言葉には半泣きになってしまいました。

(2年前は自分でもドン引きするくらい号泣してしまいお恥ずかしすぎる姿をお見せしてしまったので、さすがに今回は耐えました。苦笑)

最終日にホルシュ先生と。
私の身長(154cm)と比べて、先生がドイツ人にしては相当小柄なことがわかるかと思うのですが、小柄で手も小さいからこその演奏上の工夫を色々と伝授して頂けてありがたい限りです。

私はクラスの受講生の中では最年長だったのですが、学業真っ只中の学生達からも学ぶことがたくさんあり、刺激をもらいました。


ホルシュ先生を囲んで、クラスでの集合写真

ちなみに今回はドイツ語圏出身、またはドイツ在住の受講生がほとんどだったので(きっとコロナ禍で出入国が厳しいからですねアセアセ)、普段の生活の10倍くらいドイツ語を話した気がします。

そのおかげでようやく私のドイツ語力も学生時代程度には復活してきたような気がします!
引き続き語彙力を増やしつつ、会話のテンポ感を止めずに話したいことが話せるようにドイツ語も磨いていきたいです。


そして、今回ホルシュ先生のクラスの公式ピアニストを務められたお2人のうち、私の担当をしてくれた素敵なピアニスト、ヴァルダにも心から感謝。
私より一回りくらい年上(多分)でアンサンブル経験も豊富な方でしたが、とても気さくに接してくれて、クラリネットのクラスとの掛け持ちで忙しい中とても真摯に向き合ってくれました。

共演者との相性って大事なので、とても幸運だったと思いますラブ



さて、常々言っていることですが、私の目標は100歳までチェリストとして成長し続けること。

まだその三分の一も来ていないので、謙虚に丁寧に、初心と感謝を忘れず歩んでいきたい…と改めて感じた5日間でした。

宿泊先の窓から見た夕焼け


講習会最終日の率直な想いをTwitterに記したので、こちらにも宣言しておきます。

ホルシュ先生に出会って6年。師の背中は追えば追うほど遠くなる…とはこのことか、と思う。
それでいて私のような未熟者にもリスペクトを持って接してくださる器の大きさに頭が上がらない🥲
同じ時代に生まれてご縁を頂けたことに感謝。
学んだことは必ず活かしていきます。


それではまた。