空くん…。
君はどれだけ優しい子に育っているの??
こんな優しい空くんに、俺はなんて酷いことをしているんだろう…。
俺と離れることを寂しいと思ってくれてるんだよね…。
涙を拭って、笑顔で接してくれる空くんの心の内を思うと、俺は自身の胸がさっきからずっとチクチクと傷んだ。
空くん…ほんとにごめん。
雅紀先生、もっともっと心が強くなるように頑張るよ…。
今はまだ、色々な事に自信がないんだ…。
弱い先生で…ごめんね。
俺は空くんが不安にならないように、ニッコリと笑顔を見せ、空くんから貰った『そら』のチョコレート菓子を口に放り込んだ。
「うん!!美味しい!!『そら』くんのお菓子食べたから、雅紀先生元気がモリモリ出てきた!!お友だちの事、たくさんたくさん助けて、早く帰って来れるように頑張るね!!」
「うんっ!!やくちょくね?」
「うん、約束!!」
そう言うと、空くんが俺に向かって小指をそっと差し出してきた。
懐かしいなぁ…。
空くんがまだ、入園したての頃宇宙人ウインナーを食べに行く約束を指切りげんまんした事があったな…。
俺は空くんの小指に、俺の小指をそっと絡めた。
すると、空くんが俺の方を見てニッコリと笑い
「ゆびちりげんまん、うちょちゅいたりゃ、はりちぇんぼんのーまちゅっ、ゆびちった!!」
と元気良く歌い、俺の小指から、空くんの小指が離れた。
空くんの可愛い小指が離れた事が、とてもとても寂しくて、思わず涙が溢れそうになったけど、涙を堪えて俺も空くんの方を見てニッコリと笑った。
そうして俺は寝室へと移動し、ニノの家に行くため荷物を纏めた。
カチャッ
後ろで寝室の扉が開く音がした。
俺は振り向かなかったけれど、翔ちゃんが入ってきたことはすぐに感じとった。
「雅紀…」
「……」
「智先生から聞いたよ…。ごめん…。お見合い写真の事…黙っていて。だけど、これだけは信じて欲しいんだ!!俺はお見合いなんてするつもりは一切ない!!これからも雅紀と一緒に居たい、一生に居て欲しいという気持ちに、嘘偽りはないんだ!!確かに男同士という事で、俺の親にとっては驚かせてしまったし、俺がもっときちんと雅紀の事を話せれば良かったのだけど、そこを上手く話せなかったのは悪かったと思ってる…。だけど、これからちゃんと親父にもお袋にもきちんと話をして、雅紀の事も知ってもらって、分かってもらいたいって思ってる…。時間はかかるかもしれないけれど…。」
「…翔ちゃん…。そこまで考えてくれてるのに、ごめんね…。俺…自信がなくなっちゃったんだよ…。この先、俺が翔ちゃんと一緒に空くんを育てていっていいのかなって…。空くんのこれからの人生…俺がいる事で、めちゃくちゃにしちゃうんじゃないか、空くんが周りに色々言われて、嫌な思いしちゃうんじゃないか…って…。」
「雅紀…。空はそんな事思わないよ?だって、お前のことが大好きなんだ…。俺に負けないくらい…。」
「…ありがとう…。そうだよね…。きっと空くんは優しいから、そんな風に思わないかもしれない…それに思っていたとしても、口に出すことはないかもしれない。だけど、周りから冷やかしの対象になったら?それで嫌な思いや悲しい思いをしたら?その時、俺は全力で空くんを守れるのか…そう考えたら、今の俺は弱いからきっと空くんの前から居なくなる事を選んでしまう気がするんだ…。そんな弱い俺じゃダメなんだ…。もし、そうなった時に全力で空くんを守れる強い心を持ちたいんだ!!」
「雅紀…」
「だけど、今の俺にはその覚悟がまだ出来てない…。智先生に言われたんだ。だったら、離れて何が大切なのか、もう一度考えろって…。翔ちゃん?弱い俺で…ごめんね?…ほんとに、ごめんなさいっ!!」
「雅紀…謝るなよ…。だけど、これだけは覚えておいてくれ…。俺も空も、雅紀の帰りを待ってるから…。ゆっくり考えてくれればいい…。だけど、また一緒に居れると信じて、雅紀の帰りを待ってるから…」
「うん…ありがとう…。ごめん、ほんとにごめんね…。」
荷物を纏める俺の後ろにゆっくりと翔ちゃんが近付いてきたのを感じた。
そして、俺の後ろにゆっくりと屈むと、優しく後ろから抱きしめてくれたんだ。
俺の胸の前に回された翔ちゃんの腕にそっと触れたら、俺の目からいく粒もの涙が溢れ、翔ちゃんの腕を濡らした。
「雅紀…好きだ。いや、愛してる…。1人で辛い思いさせちゃって、ごめんな…。」
俺は涙を流しながら、ずっと首を横に振り続けたのだった。
翔ちゃんは俺に回していた腕をそっと緩めると、俺の身体の向きを翔ちゃんの方に向け、翔ちゃんの胸の中にしまいこんでくれた。
俺は翔ちゃんの胸の中で、泣きたいだけ泣いた。
翔ちゃんはその間、ずっと俺の背中を優しく擦り続けてくれたのだった。
つづく
翔ちゃんとも、話をすることが出来ましたね
空くんとは指切りげんまんも…
雅紀くん、強くなって帰って来れると…いいなぁ…