一昨年の冬、二週間だけ彼氏がいた。 


 その彼とはマッチングアプリで知り合った。

 一ヶ月ほどやりとりして実際に会うことになった。


 会う決め手になったのは、当時境界知能の悩みで病んでいた私に、医療従事者である彼が寄り添ってくれたのが一番の理由だ。


 しかし医療従事者と言っても彼は事務だったせいか境界知能を知らなかった。

 この時点で地雷だと見抜けなかった私も私だが、彼は境界知能について自分なりに一生懸命調べてくれた。そんな人だから会ってもいいと思ったのである。


 初めてあった日。彼は仕事終わりで待ち合わせにスーツを着て現れた。

 痩せて背の高い彼はスーツに着られている印象だったが、そんな人はいくらでもいるし、見た目なんてどうだっていい。


 繁華街でディナーをとれそうなお店を探す。

 彼の仕事が何時に終わるか分からないのでお店の予約はしなかった。

 私達は金曜の夜に空いている店がないか探して歩いた。

 「お店探してるなら空きありますよ。いかがですか?」 

しばらく歩いているとキャッチの女の子に声を掛けられた。 

 「悪質な客引きに気をつけてください。お金をふんだくられる事件が多発しています」 

街にはそんなアナウンスが流れているのに、彼は迷わずその店に入店。

 え?え?客引きは危ないって。何考えてんの?この人。

 そう思いながらもしぶしぶついていく私。

 店はムードもへったくれもない、ファミレスを少し小綺麗にしたような店で私の気分はどんよりする。

 普通初めての顔合わせはちょっといい感じの店を選ぶものである。

 そういう意識は彼にはないのだろうか。

 ちなみに店に入ると私はやみくもにキャッチに誘導されるままに店に入ってはいけないよ、犯罪に巻き込まれるかもしれないよ、と注意した。

 へー、そうなんだー。と聞いているのかいないのか分からない返事。

 大丈夫?この人。


 彼の住まいは神奈川県の端っこの方だった。勤め先の病院は東京の西の方。彼は実家住まいだ。実家から勤務先まで1時間半。「一人暮らしは考えないの?」「うん、家から通えるし一人暮らしの必要性がないから」  

ちなみに彼は当時43歳。

 43歳実家暮らし。 

これは…。嫌な予感が胸を過る。

 そしてその予感は見事的中することとなる。


続く