三次創作小話「忘羨その後」(4-10)
二日目の夕方、ランジャンがウェイインを迎えに来た。
ウェイインは、ランジャンの顔を見るなり、胸元にしがみついて、肩に額をのせた。
(泣いているのか?)ランジャンはウェイインを寝室へ連れて行く。
しばらくして、気持ちが落ち着いたウェイイン。
「お前の顔を見たら、気が抜けてしまって、
自分の力なんて、庭の蟻みたいにちっぽけだって、思い知らされたよ。
自然の猛威は凄まじい。
人間の努力なんて、あまりに無意味で、滑稽なほどだ。
若い頃、自分を驕って*いたのが、いまさらだけど、恥ずかしいよ」
全員、雲深不知処に戻り、ランジャンは沢蕪君に相談する。
「食糧を運びたくても、道には灰が積もり、馬車で行く事は困難です。
御剣でできるだけの荷物を持って行くしかできませんが、せめて一度でも炊き出しをしたいのです」
翌朝、御剣で飛べる子弟全員を連れて、飛び立った。
百名はいただろうか。食糧を下ろすと、二十名ほど残して、飛び帰って行った。
街のあちらこちらに飛んで行き、炊き出しを触れ回った。
人だかりができて、感謝の言葉をもらうと、ようやく、ウェイインの顔に明るさが戻った。
「また、炊き出しをしましょう」
「今度はいつがいいでしょう?」
子弟たちの言葉に、涙が出そうになったウェイイン。
「皆んなのおかげで喜んでもらえた。ありがとう」と頭を下げた。
疲れて寝てしまった子ども達の背をとんとんしながら、
「お前に教えてもらったよ。
思い通りにいかなくても、力を尽くせば後悔しなくて済むんだって」
「私は君に自尊心*を取り戻してほしかった。
君は私の誇りなんだから」
「今回は、子弟たちにも苦労させた。
お礼をしなくちゃな。何がいいだろう」
「彼らの望みは、君自身だ」
「はあ?お前、からかってるだろう」
(子弟たちが、君に憧れと畏敬の視線を向けている事に、君は気づいてないのだろう)
「少しでも、修練に付き合ってあげるといい」
「それでいいのか?」
ランジャンは、こくっとうなずき、
「子ども達を寝床に寝かさないと。
君は、風呂に入っておいで」
ウェイインが湯船の縁に手枕で、うとうとしていると、ザブンと湯の嵩が増して、ランジャンに背中から抱きしめられた。
「兄上に叱られるぞ」ウェイインがくすくす笑う。
「うん、それでも君を抱いていたい」
ウェイインはランジャンの腕をつかむと、腰を持ち上げ、ゆっくりとランジャンの上に乗る。
「ああ、深い、深すぎる」
ウェイインは、ランジャンの“それ”を締めつける。
腹が上下するほど、息遣い荒いランジャン。
ランジャンが下から突き上げ始め、どんどん激しくなっていく。ウェイインの体が弾む。
やがて鎮まると、湯がほとんどなくなっていた。
ウェイインは笑いながら、ランジャンの手首をつかんで、「続きは寝床で」と誘う。
ランジャンが恥ずかしそうに嬉しそうにうなずく。
ウェイインだけに見せる、ランジャンのそんな表情が、ウェイインにとって、この上ない幸せだ。
つづく
*驕る(おごる)…地位、権力、財産、才能などを誇って、思い上がった振る舞いをする。
*自尊心…自分はかけがえのない存在であり、価値のある存在である、と思う心情。
恥ずかしそうに嬉しそうにうなずく
this is devastatingpic.twitter.com/A6Cfn68vqi
— crox🌱comms open! (@b_rosyll) 2024年6月23日