三次創作小話「忘羨(ワンシェン)その後」第四十九章①


(雅室にて)

「俺がランジャンの夫でがっかりか。

清楚な麗人*を思い描いていたんだろう?」


「はい。

いえいえ、夷陵老祖は英雄です。夷陵の人々の誇りです。

善と悪の並び立つ両雄。

まるで、夢物語の世界のようで、できすぎではありませんか」


「一つ訂正します。

ウェイ師叔を悪と決めつけないでほしい。

彼は、悪に屈せず、正義を貫いた不正出*の英傑*です」

にこやかに、沢蕪君が言った。


「やはり、世間の評判は当てにならないものです」


「俺は自分の信念を貫いただけだ。

大したことではない。

乃木大老、あなたも信念をお持ちでしょう?」


「私は悪者になっても、子ども達を守りたかった。それだけです。どんな罰も受け入れます」


「あなたが銀塊を奪っていた村々が、困窮していたことは分かった上での所業ですか?

子ども達もさぞ辛い思いをしていたに違いない」


乃木大老は、無になったかのように、感情を表に出さない。


突然、戸が乱暴に開かれ、ランジャンが飛び込んできた。

髪も衣も乱れ、必死の形相に、皆、唖然としている。


ランジャンの顔から、外衣で包(くる)まれたものへ、皆の視線が移る。


ランジャンはウェイインの側に座ると、外衣に包まったものを自分の膝の上に置いて、

「この子の体温が低い。診てくれ」


外衣をめくると、赤子の顔が現れた。

温ニンが、その子を外衣から取り出し、丸ござの上に寝かせた。


「どうやら、泣くこともできないほど、弱っています。

身体を温めないと。湯婆*を用意して下さい」


ウェイインは、真っ青な顔で、赤子の顔のその白さに吸い込まれるように見つめていたが、

「うっ」と口を押さえて部屋を飛び出した。


慌ててウェイインの後を追うランジャン。


ウェイインは庭の端で、うずくまり、嗚咽を上げながら、吐いていた。


「ウェイイン、ウェイイン、大丈夫か?

息はできるか?」

背中をさすり、霊力を送り込むランジャン。


「だめだ。耐えられ…」

そう言うと、前のめりに倒れた。

つづく



*麗人…容姿の美しい女性。

*不世出…めったに世に現れないほど優れている。

*英傑…優れた才知と勇気を持ち、抜きん出ている人物。


*湯婆(たんぽ)=湯たんぽ…湯婆の「婆」は妻のこと。妻の代わりに抱いて暖をとる、という意味。

7世紀、唐の時代〜。






かわいい💕「無名」

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