お伽話にでも出てきそうな暗く小汚い小径への入口にその店はあった。

看板なんてない。
なのに人はその薄暗い小径へと吸い寄せられる。
ボクが西成にやってきたのは、その小さなおでん屋ふかがわで熱々のおでんを食べたかったからだった。

少し入るとモウモウと湯気を巻き上げる土鍋の前にエプロン姿の女将さんがいた。
女将「どれにしますか?どれも一つ100円ですよ。」
メニューなんてないみたい。
この鍋に入ってるおでんが全てなんだろう。
スジ肉2本、じゃがいも、竹の子、そして定番の大根にした。

さっきマルフクでホルモン食べたとこなのに歯応えがありそうなスジ肉から嚙ってみる。
めっちゃ堅いw

最近ボクのイチオシおでんネタになってるのが竹の子で、それがちゃんとあったから嬉しい。
食べてみると…

うんめ〜(@ ̄ρ ̄@)
なんてことのない普通の竹の子にしか見えなかったので完全に油断してた。
ほっぺが真っ赤に染まりそうなくらい甘い旨味が体の芯まで染み込んできた。

そして大根を食べようとしたら…
小径を吹き抜ける木枯らしに包まれ、ボクの頭の中に見たことのないセピア色の風景がぼんやりと浮かび上がる。

戦後の焼野原跡にペラペラのバラック小屋が建ち並び、少し広い大通りには敷物を敷いただけの露店が犇めいる。
その片隅でおでん鍋はグツグツと音を立てて空へ熱気を立ち上げていた。
その横で若い女将さんが道行く人に元気に声を掛けてる。
女将「熱々のおでん食べませんか。甘くて柔らかくて美味しいですよ。」

あれっ。
赤毛の少女がシクシクと泣きながら歩いてきた。
それを見て女将さんが駆け寄る。
女将「どうしたん?」
赤毛「髪が赤いからってイジメられた。」
女将「そっか。赤い髪綺麗やから嫉妬してるんやわ。そんなに泣いたらお腹空くやろ。お客さん全然けーへんし、おでんでも食べる?」
赤毛「うん。」
女将「アハハ…めっちゃ食べるやんか。美味しい?」
赤毛「めっちゃ美味しい。最近何も食べてなかったからちょっと食べ過ぎてしまった。ごめんなさい。」
女将「ええから一杯食べてな。あんたのお父さんとお母さんは?」
赤毛「いない。(ノ_<)」
女将「え…あなたも一人か。」
それから70年が経って…

まぁ…そんなことはないか。
ボクは店から出ると、ホルモン屋の前で声をかけてきた赤髪のオバさんを探してみる。

あれは一体何だったろう。