学生時代、それなりに吹けてる風(ふう)だった僕は、19歳の時にはキャバレーやナイトクラブのステージに立っていました。そんな仕事場の一つで、たまに袴塚 淳さんと一緒になることがありました。当時三十を超えたばかり(後輩ミュージシャンからするといちばん先輩がとんがって見える歳頃)のヅカさんは、注目の若手プレイヤーから実力派中堅の存在感に移行しつつあり、大物シンガー達のファーストコール・ピアニストとして多忙を極める憧れのミュージシャンでした。何しろあの正確で美しく繊細な演奏スタイルですから、僕はいつも細心の注意を払って緊張しながら吹いていました。

 

 ある晩リクエスト曲を演奏した際、Aメロディーは大丈夫だったのですがBメロ(サビ)がうろ覚えで、フェイクのようなアドリブのような感じでしのぐも、ぎこちないプレイはサウンドを濁らせ、タイムが乱れました。

 休憩席で目を合わせることができず小さくなっている僕の前で、ヅカさんはおもむろにハイライトに火を点け、深く吸い込み、紫煙をふーーーーーっと吐き出すと、

 

「谷口君、さっきの曲のサビのコードは…何?」

 

「(すすすす、すみません…)」

 

 それから十五年ほどの年月を経て、僕はヅカさんを自分のバンドのレギュラー・ピニストとして迎えることになり、今日に至るまで頼もしい共演者であり、良き飲み仲間であり、という間柄を続けさせてもらっています。そういえば昔こんな(↑)ことがありましたよね、あのときのヅカさんホントに怖かったんですからぁ!と言うと、ヅカさんは目尻を下げ人懐っこい笑顔になると

 

「いや、あのときはオレがコードがわからなかったんだよ」

 

 

気がつけば、僕ももういい歳ですがヅカさんもなかなかのお歳です。あいかわらず未熟な谷口ですが、いつまでもお元気でおつきあい願いますよ。

 

ということで、しつこいようですが、

3月15日(金)   東京 

[会] 阿佐ヶ谷 クラヴィーア 開場19:00 開演19:30(2セット入替なし)
[出] 谷口英治(cl),袴塚 淳(p)
[料] 3200円
[問] ☎03-3393-0418 
http://www2.tbb.t-com.ne.jp/klavier/www/