プロミュージシャンの道へまっしぐらだった僕でしたが、思うところがあって大学四年時に音楽活動をやめ税理士への道を選びます。が、今こうしていることからもわかるように、結局は音楽から足を洗うことはできませんでした。

 

 簿記専門学校の新規入学手続きもすませ鉢巻を締め直していた大学卒業間ぎわに、とある音楽事務所から電話がかかってきました。それは当時人気上昇中だった某アーティストのコンサートツアー参加の打診でした。そのバンドは当代きっての若手実力派プレイヤーがまばゆいばかりに顔をそろえており、そんな中に加えてもらえるという長年の夢の実現がまさに手を広げて待ってくれている状況でした。散々に悩み抜いたすえ、そのツアー終了までを自分の音楽の区切りにすることに決めました。人生においてもう二度とこんなチャンスは巡ってこない気がしたのです。

 ミュージシャンになることを認めていなかった両親に、留年したとでも思って目をつぶってもう一年だけ遊ばせてくれと頭を下げました。

「たぶん僕の実力ではプロの世界では通用しない、それを確認してくるよ。ツアーが終わったら、また勉強に戻るから

と説得して、僕はツアーに出発しました…

 

 その後、なしくずし的にミュージシャンを続けてしまった息子の生き方に対して、父母がどれだけ心配をし残念な思いだったか、大学生の子供を持つ立場になった現在の僕には痛いほどわかります。

 

 今では僕のやってきたことを理解し誇りに思ってくれている両親ですが、たまに実家に寄ってお茶をしていると

 

「で、ツアーからいつ戻ってくるんだい?」

 

というジョークをかましてきます。僕はカップを皿に置き遠い目をしながら、

 

「まだツアーは続いているんですよ、お父さん」