起きれない男③ | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

初日の昼と夜の仕事を終えて少しだけでも眠ろうと画家さんのマンションへと向かった。



汗だくになっていたのでシャワーを浴びれるのも嬉しかった。



帰りの車の中では助手席の僕と運転する画家さんはずっと喋っていたのだが、後部座席にいるKさんは静かだった。



疲れているのか話を振っても返しのキレは悪く、それなのに都内に入ると腹が減ったからラーメンを食べたいと急に張り切っていた。



高円寺のラーメン屋で夕飯になるのか朝飯になるのか、よくわからないが明け方でもやってるお店でラーメンを食べた。



そして画家さんのマンションに到着した。



前に泊まったマンションからは引っ越していたので、僕もこの部屋に来るのは初めてだった。



画家さんは家賃の更新というものを1度もしたことがないらしく、更新料を払うのがもったいないからと更新のタイミングで常に引っ越すそうだ。



僕の感覚からすると免許証等の住所変更やらの手続きが面倒だからあまり引っ越さない。



環境が変わることや手続きで仕事を休んだり自分のプライベートで職場に負担が掛かることはなるべく避けていたと思う。



ちなみに画家さんは最高で1年間に7回も引っ越したそうだ。



それだけ居住空間には独自のこだわりがあるのかもしれない。



部屋は散らかってると言っていたが男の独り暮らしなどそんなもんだ。



画家さんにはセフレが数人いるのだが、その中にはお掃除おばさんと呼ぶ部屋の掃除を専門でやってくれる女性がいる。



セフレというか異なる特殊能力を持った妖精たちを召喚している魔法使いのような肉体契約かもしれない。



部屋の中には画家さんの作品であるアートが飾ってあったり、雑に床に転がってたり、玄関の脇にはカラフルな塗料の瓶が下駄箱にたくさん並んでいた。



画家さんがイベントを開催したときに交流のある俳優から届いた祝い花に添えられていたであろうネームプレートもあった。



イベントのパンフレット(もっとカッコいい言い方をしてたと思う)も渡されて読んでみた。



お洒落なのだが、仕事で疲れて眠いせいか内容までは覚えてない。



部屋にはプロジェクターがあって、それを壁に向けて画家さんの撮影したイベントの動画を観ることになった。



その壁の下にはもっと大型のプロジェクターがあって、80万だと言う。



それはプロジェクションマッピングとかで使う機材らしく光が強くて部屋の中では狭くて映像は見えないそうだ。



イベントの動画にはDJブースが横にあってDJが曲を回してる奥の壁にプロジェクターで映像を流していた。



その手前にはアート作品が描かれたようなキャンバスが置いてあり、そのキャンバスに向かってイベントに参加していたドキンさんがスプレーでローマ字を吹き付けながらDJの曲に体を揺らしていた。



プロジェクターから壁に映し出している映像も画家さんが自分で編集した作品だと言っていた。



このような総合的なアート作品についてどのように評価したらいいのかはよくわからない。



音楽と映像とアートの融合だろうか?



そこにお客さん参加型というエンタメの流行りとしては納得する。



なんだろう、アートのイベントとしての最新マニュアルのような、これでアルコールが飲めるならお客さんはそれなりに楽しめるとは思う。



ただ、アートイベント・コンサルタントみたいな職業の人(実際にいるのか知らないけど)が手掛けそうなイベントのフォーマットがあるのかもしれない。



イベントは集客ビジネスだからそうなるのもわかるけど、アートそのものはもっと自由でクレイジーであって欲しいとも思う。



で、イベントの動画をいくつか見せる途中で、動画のアイコンを間違えたふりをして、画家さんが女にポコチンをしゃぶらせてる動画が間に挟まるのだ。



イベント会場よりも自宅での映像作品のがよっぽどクレイジーなのである(笑)



画家さんが「これ、なんすか?」と言う度にさっきとは別の女が画家さんの股間に顔を埋めているのだ。



ひどいのは、ふにゃふにゃの画家さんのを女が左右にプルプルと振ってる映像もあった。



iPhoneからプロジェクターを経由して、デザイナーズマンションの部屋の壁に映し出されている家主のポコチンを、僕たちはさっきからずっと見せられているのだ。



とにかく画家さんはこういうことにはオープンな性格なので、困惑する僕らに本人はキャッキャと笑っていた。



翌日のKさんの感想は「ああいう動画を撮るのもどうかしてると思うけど、ちょいちょいブスが出てくるのは何なんすかね?」と。



このようにKさんはトスを上げるのが上手い。



画家さんがデブ専なのはなんとなく知っていたが、実はブス専なのかもしれない。



画家さんは誰が見てもイケメンなので、整った顔の女に対して特別に興味やコンプレックスのようなものも本人の自覚すらない人生だからだと思う。



この動画上映会が思ったよりも長かった。



翌日の昼に間に合うように6時30分にはマンションを出なくてはいけなかった。



シャワーは起きてから浴びることになった。



画家さんはベッド、Kさんはソファ、僕は床(なんでやねん!)で慌てて寝ることに。



とにかく疲れて眠くて仕方なかった。



今、冷静になって考えると判断を間違えた。



2日目以降も昼夜昼と仕事は続くから少しだけでも寝た方がいいという空気になっていた。



20分だけでも寝ようと。



一人だけバキュームフェラの達人がいたので、その音が耳に残っていて冷静な判断ができなかった。



携帯のアラームをセットしようと。



僕は20分後にセットした。



画家さんも昼は休みだったけどアラームをセットしてくれた。



Kさんは「俺はアラームのセットはしない」(どゆこと!?)と宣言してソファで横になった。



確かにKさんは朝寝坊や遅刻したり仕事を休んだり1度もしていない。



嫁と子供たちを養う3児の父は朝に強い責任感の塊なのだろう。



この三段構えなら絶対に大丈夫だと安心して、僕は床で横になって、気が付くと眠っていた。



チュンチュン



そして、僕は目を覚ました。



時計の針は7時10分を指している。



タバコに火をつけて、ゆっくりと煙を吐き出した。



やっちまった。



Kさんも目を覚まして状況を把握した様子で、タバコを吸う僕の背後から声を掛けてきた。



「あれ?どうしたんすか?(笑)」



「……アイディアが…浮かばない…」



もう遅刻も出来ない時間になっていたので休むしかないのだが、休む理由が浮かばなかった。



Kさんは普段から休まないので、会社の親しい先輩にラインで“体調悪し休みます”だけ送って開き直っていた。



なぜ、こうなった?



何が三段構えだ。



徹夜して20分だけ眠って起きれるわけがない。



Kさんも疲れていたら起きれるわけがない、ここは自宅とは違う。



それよりも画家さんはまだ寝てるのか?



すると、部屋の外から画家さんが飛び込んできたのだ。



「あれ?どうしたんすか?」と。



いやいや、そっちこそどうしたの?と。



画家さんは彼女が急にテレビ電話で泣きながら電話を掛けてきたらしく、その彼女に対して罵詈雑言を浴びせていたそうだ。



その最中にアラームが鳴っていたが怒りでそれどころじゃなかったと。



部屋の外で彼女に対して、ぶち殺すぞとか怒鳴っていたらしい。



いや、なにこの、3人いてもダメなのかい。



仕方なく正直に班長に寝坊したことを謝罪するショートメールを送った。



Kさんは僕がガチで反省していることに驚いていた。



仕事での迷惑は掛けてない休みだけど、寝坊なので連絡が遅いのもある。



そんな僕にKさんは言った。



「アニキは寝坊で休むって言ったけど、本当は夜も通しで働いてっからね!ただの寝坊じゃねえからさ、エース級の活躍したから休むってメールすればいい(笑)」



どこでエース級の活躍してんだと。



やっぱ金を稼ぐには体力も含めて割り切る精神力が必要なんだと思った。



というか仕事が出来ないとか協調性がないとかなら割り切る方が必然性があるわけでね。



他にはバキュームフェラで辛抱たまらんので休みますとか好き勝手言ってるうちに、二人は缶ビールを飲んでましたけど。



僕は寝坊で休んだことになってるので、職場での相棒からは電話での質問が掛かってきた。



仕事を休んでも現場は守らなくてはいけない。



酔っぱら二人と喋っていたら画家さんがベッド眠ってしまったので、そのままにして帰宅することに。



自宅のアパートには昼過ぎに着いた。



休んだのにぐっすり寝る時間もあまりない。



電話の音で目を覚ました。



またやっちまったかと。



相棒からの電話だった。



ちゃんと報告や確認をしてくれるのは頼もしい。


少しだけ横になった。



昼の仕事はそれだけ責任が重いわけだが、単純作業の夜勤よりも遥かにその単価は安い。



納得はいかないけど、これが世の中の仕組みなのだろう。



経済力のある男がモテるのは女が本質を見抜く力がないか、金の力が凄まじいかのどっちなんだ。



金儲けの頭の使い方は脳ミソの使う場所が違う。



お金を稼ぐのはなかなか難しい。