政治と商人 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

兄貴との長電話で地元にある老舗の大型スーパーの社長について話を聞いた。



チェーン店のような大型スーパーではなく、僕が生まれる前から地元にある。



場所は工業団地の方にあって、兄貴は小2まで団地に住んでいたのでその大型スーパーに通った記憶とかは兄貴のが詳しい。



そのスーパーの社長も現役ならかなりの高齢だとは思うけど、市に多額の寄付をしていると。



この話を兄貴から聞かされたときの僕の心境は、お金持ちがよくやる税金対策の類いかなと思った。



とはいえ老舗の大型スーパーだとしても、イオンなどのネームバリューや資本のあるスーパーとの価格競争では相当な苦戦をしていることは想像できる。



市に多額の寄付をすることによる店側のメリットのようなその目的がよくわからなかった。



建物も老朽化してるだろうし、工業団地の人口もかつてのような住民数はないだろうし、その地域に住む固定客で成り立っているスーパーだと思う。



兄貴から聞いた話だと、その大型スーパーの社長は少子化なのが悲しいと。



市に寄付したお金を出産祝い金として使って欲しいと。



子供が生まれると20万円を市から支給されるらしく、その財源として使われているそうだ。



スーパー満月満月の社長は凄いだろ?と兄貴から言われたが、僕には意味がわからなかった。



やってることは素晴らしいし、賞賛に値する尊い行いだけれど、なぜそのような私財を市に寄付するのだろうかと。



なぜ少子化がそこまで悲しいのかと。



地域に密着した大型スーパーとして成功した後の引き際の美学としてだろうかと。



お金持ちの考えることはよくわからないし、商人の考えはどこか人間として嫌らしいものがあるように僕は思う。



すると、兄貴から予想外の答えを聞いた。



スーパー満月満月の社長は戦争に行った世代だと。



一緒に戦争に行った戦友たちは、この国の未来の為に戦って死んで行ったんだと。



それなのに、なんで少子化になるんだと。



少子化になるのが許せないと。



じゃあ、あいつらは一体、何の為に死んで行ったんだと。



それで社長は私財を市に寄付して、それが出産祝い金の財源になっていると。



なぜ、この話を兄貴が知っているかも疑問である。



高額納税者のような納税額とは違い、寄付について市から公表されることはない。



ただ、市に寄付をした人に対しては、市から感謝状が贈られるのだ。



そこには市に寄付をした人達だけが集まり市長から感謝状を受け取ることになる。



うちの実家の爺ちゃんが亡くなった時の遺言で市に100万円を寄付したことがあったのだ。



爺ちゃんは他界をしているので、父親と兄貴が代わりに感謝状を受け取りに行ったときに、そこにスーパー満月満月の社長もいてその話を聞いたそうだ。



もちろん寄付の金額はうちの爺ちゃんとは桁が違うけど、うちの爺ちゃんも戦争に行った世代なのだ。



この、なんというか、綺麗事の向こう側のような、きっと、これまでも、僕たちは公表されることのない者たちからずっと守られていたのかもしれないと。



僕たちの生きているこの瞬間の為に、多くの若者たちが死んでくれたのだと。



地元や郷土を守ることを誓い、未来を信じて散っていったのだろう。



そのような同志が集う場所が現在もあるとは知らなかった。



市に寄付をした人に感謝状を贈る場所には、その町を故郷を心から愛する者たちが自然と集うことになるのだろう。



市長や役所の人でもそこでの話は貴重だと思う。



チェーン店のような大型スーパーからは市が税金を徴収することは可能だけど、利益や所得を地元に寄付することはなく本社に流れてしまう仕組みだと思う。



少子化なのが許せねぇって私財を地元に投下するような世代が消えたらどうなるのだろうか。



このような公には公表されることのない数字や人物が地元にいることの意味は大きい。



実家の爺ちゃんの葬儀のときには市長が焼香に来ていたのだが、僕はよく理解できてなくて誰の葬式にも市長が来てくれるもんだと思っていた。



婆ちゃんの葬儀の時も市長が来ていたので交流があったのかもしれない。



この話を聞いて、僕の中でお金を稼ぐことの考え方に変化があった。



例えば1億円を寄付しても一人の出産で20万円なら年間で500人の出産祝い金になる。



お金は稼ぐことよりも使い方が大事なんじゃねえかと。



正しいお金の使い方を出来る人間が大金を稼ぐことは嫌らしいことではないなと。



政治と商人は繋がっていると。



お金を稼ぐことは良いことなんだと。



凄く前向きな気持ちになれたことで、僕は夜中に急に走り出したんだと思う。



未来の為に生きるには、どうすりゃいいんだと。