ここだけはノーガードだった。
こんなダメージは過去に経験したことがなかった。
これまでのような物理的な打撃によるダメージではなく、精神的な言葉によるダメージでもなく、それは視覚的な写メールによるダメージで、僕は死んだ。
イカれたやつが仕事絡みのイベントで名古屋から東京に戻ってきていた。
だからといって会うことはない。
僕はこの年になってようやく交通費の計算が大切なんだと学習したのだ。
若い頃は片道切符の感覚だけで常に行動していたのだが、人生は往復の交通費を計算しなければ幸せにはなれないと、悪く言えばケチな男になったわけです。
ケチとはなんぞや?と。
元カレとの別れた理由に“ケチ”が上位にくる。
(メンズエステ嬢調べ)
僕にはこれがよくわからなかった。
このような統計からすると元カレと別れる理由が“ケチ”であるならば“ケチ”はモテる理由にもなるのではないかと。
僕が思うに、ケチと貧乏は違うと思う。
別れる理由がケチならば、ケチな男でも付き合う段階には発展するのだから、ケチというのは絶妙なラインなんだと思う。
では、具体的にケチな男とはどのような男なのだろうかと考えてみた。
デートの途中でソフトクリームを衝動買いしない。
これはなかなかのケチだと思う。
ソフトクリームの誘惑にも負けない我慢強さがケチさを際立たせる。
観光地に行ったとき、最初からお土産を買おうとしたら手荷物になるからと「帰りに寄ろう」と言ったにも拘わらず、その店には立ち寄ってくれない。
もうさ、これなんかはケチというか、こんなのは嘘つきだよね。
帰りの新幹線の交通費は自分が払うと言ったくせに、行きの交通費をこちらが節約しようと我慢してクソ狭い拷問のような高速バスで泣きながら行ったのに、
「そんなに安いなら帰りも高速バスを使えばいいじゃん」
と全身の血の気が引くような台詞を吐く。
ケチ以前に性格が悪い。
そういうことかもしれない。
イカれたやつは性格が悪いのだ。
デフォルトがケチだと、ちょっと高額なプレゼントだけでも、お得感を演出する際にも金額的に“お得”だということだ。
もしくは、何かしらの企みがあるのではないかと疑うようになる。
ケチに意識を集中するだけで、計算することになる。
往復の交通費を払ってまでわざわざ会いに行く理由などあるのかと。
ケチを意識するだけで自分の行動を抑制することができる。
あんまり考え過ぎると自分がこれまでしてきた行動や結果の全てが後悔のようにも感じる。
イカれたやつは仕事絡みのイベントみたいな集まりがあり、女性限定の集まりらしく、全国から50人くらい参加者がいたらしい。
そこで参加者からイヤリングをプレゼントされたと写メが送られてきたのだ。
そのイベントとも関連のあるイヤリングをみつけた参加者がそれを購入してイカれたやつにプレゼントしてくれたと。
とはいえ、イカれたやつはイヤリングをしたことはないのだ。
少なくとも僕は見たことがない。
それでもプレゼントされたら付けると思う。
ただ、そのイヤリングに似合うファッションってのが僕にはわからなかった。
その話の前に、イカれたやつは自分のファッションセンスを誉められたらしく、さし色?よくわからないが、イベントを撮影していたカメラマンからトータルの色使いを誉められたらしく、ご機嫌だったのだ。
自分のファッションセンスのことはともかく、そういう色使いのバランスが分かると言い出したのだ。
こうした口に出して言える自信というのは他人の評価よりも大事なことなので、その感覚を忘れないうちに磨いた方がいいと伝えた。
どうせならプレゼントされたイヤリングに合う色合いのファッションをコーディネートしてみたら?とアドバイスをしたのだ。
そしたら、プレゼントしてくれた人だけが分かるくらいチラッと写ってればいいと。
それならネタにもなるからと。
こういうところで負けてるんだなと思ったわけですよ。
イヤリングをプレゼントしてくれた人に対するアンサーで100点を取りに行けと。
チラッと間接アピールみたいなのが一番良くないと。
凡人100人から叩かれるより、天才1人から認められた方が最終局面で勝つだろと。
そしたらまた変な言い訳をするわけよ。
別に文句を言われたら、だったら自分がこういう仕事をしてみたら?って言えるから平気w
みたいな返信きたわけ。
そこでの反論で勝っても前には進んでないわけじゃん。
そんなのはどうでもいいわけでね。
プレゼントのアンサーで100点を出したらどうなるか?だよ。
また次のプレゼントくるよ。
他の人もプレゼントあげるよ。
アンサー(リアクション)が面白いからね。
それが企画にまで発展するわけだよ。
いかに楽しませるか、そんなのサービス精神でしかないわけでさ。
どんなプレゼントでも着こなすオバサンってだけでも面白いじゃん。
ノリがいいってだけで楽しいわけだよ。
とにかくそうやって少しずつ社内での自分が動員できる数字を増やすしかないわけでね。
会社の中に味方がいないなら会社の外に味方を作ればいいわけだよ。
社長の喉元まで届かせるにはそうやって積み上げていくしかないわけで、戦ってる場所が凄い手前なんだよね。
ダメでもやってて楽しいならそれでいいしさ。
イカれたやつの怖いところは僕のアドバイスを否定したりバカにしたりするのに、こっそり実行して大敗するのよ。
なんの策も練らずにやったら負けるじゃん。
前もそんなのありえないとかさんざん否定しといて企画会議で勝手に言って上司から却下されたとかなるわけ。
そこは誇りだから絶対にダメだって言われたと。
いや、その先の展開まで説明してないじゃんって思うわけ。
誇りって業界人が勝手に思い込んでるだけで、消費者は何とも思わないし、それだけそこは盲点なわけで、同業者をブッちぎれるって見えるわけでさ。
ただ、それから次にどうするかが本題なわけで、そっちに誘導するための布石の段階で意味もなく却下されたらそれで終わりなのよ。
1から説明しないと戦わなくていいところでザコと本気で戦ってんだよね。
まずは上司を倒してから役員なり社長なり会長がラスボスなんだからさ。
貰ったプレゼントをどうやってアイテムとして使うかじゃん。
最初のフリがネタとしても機能するならそこが最大のチャンスなわけでさ。
次のタイミングじゃ意味合いが違うわけでさ。
ちょっと恥ずかしいくらいのイヤリングで始まるからネタになるわけでね。
案パイで置きに行ったらダメじゃん。
人の話を聞かないからこういうノリが見えないわけでね。
そんな感じでアドバイスというか、励ましてたわけですよ。
そしたら、暫くしたら、写メを送ってきたわけ。
写真を見たら、手紙みたいな2つ折りのファンレターみたいなので、なんか汚い字で書いてあんのよ。
女子限定の集まりだって聞いてたけど、レズみたいなのもいるのかな?思ってさ。
イカれたやつは裏方なんだけど、誕生日プレゼントとかも過去に貰ったりしてるから、もしかしたら痛い男のファンなのかなって思ってファンレターを読んでみたのよ。
ガラケーの小さい画面に顔を近づけてさ。
そしたら、そのファンレターの2つ折りの上半分には大きな字で「好きだ」って書いてあんの。
これどう見ても男の字なんだよ…
うわ、超怖いな思って…
ちょっとこれはマジでキモいな思って……
嫉妬とかそんなんじゃなくて、イカれたやつはそういう気持ち悪い男から好かれるようなやつなんだと思ったりしてさ…
で、そのファンレターの文章を恐る恐る読んでみたわけ。
ファンレターだけど犯行予告を読んでるような感覚だよ。
気持ち悪いなぁ思いながらさ。
途中でなんか、胸がざわざわしてきてさ。
心臓がバクバクしてきてさ
鳥肌も立ってきちゃってさ
そんで手紙の最後に書いてあるわけ…
俺の名が。
嘘だろ!?
前前前世じゃないけどさ、やっと目を覚ましたよ。
俺が10数年前に、イカれたやつにあげたラブレターだったのよ。
もう速攻でメール返したよ。
殺してくれ、と。
これは酷いよ
こんな仕打ちはないよ
俺のことはいいけど、このときの
![満月](https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/250.gif)
![満月](https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/250.gif)
男なんかそんときは目の前のことで一生懸命じゃん。
それも手紙を開くと音楽が鳴るやつなの。
そういう手紙が当時は売ってたのよ。
曲は当時のKinKi Kidsがやってたラブラブ愛してるって番組のテーマ曲で「全部だきしめて」ってパッピーな曲があったわけ。
それがラブレターを開くとオルゴール調で流れるわけですよ。
殺してくれぃ~
もう許してくれぃ~
気持ち悪いなぁって思って読んでたのが差出人は自分本人だかんね
そりゃないよな
あんなもんは当時のイカれたやつに捧げた言葉であって、今のメンタルで読まれて笑うのは違うよな
ボールペンで1発書きだから「好きだぜ」って決めるはずが余白が足りなくなって「好きだ」の右下に小さく“ぜぇ”って書いてある。
でもさ、“愛してる”って言葉は使ってなかったから安心したわ。
それは嘘だもんね。
まだイカれたやつと付き合ったばっかの頃だろな。
とんでもないブーメラン飛んできたわ。
ふぅ、まぁでも、あの頃はまだイカれたやつもアルバイトで片頭痛やら難病やらいくつも病気を抱えて弱っちかったけど、そんなやつが今は名古屋で一人暮らしするなんて想像もしてなかったからな。
あの頃の俺、よく頑張ったな(涙)
気持ち悪いくらい真剣に生きてたな(笑)
幸せってなんだろな……