イケメンの泳ぎ方6 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

話がなかなか進まないわけですけど。



最初の印象と変わるところもあれば、そういうことかと納得する部分もあったりしてね。



イケメンは僕に対して彼のが年上なのに敬語を使うんですよ。



彼は出戻りで職場には僕が先に居たからなんだと思いますけど。



僕は年下なのでイケメンには当然ながら敬語ですけどね。



で、彼は優しいところもあるんですけど、キレるとそれを逆手に取るタイプなんですよ。



何ていうのかな、防衛本能としての優しさなんですかね。



何かしらのメリットを求めて優しくしてる部分があるんでしょうかね。



元請けの担当者に対して電話でキレてる時にも、「オレはいつもお前のが年下でも敬語使ってるよな」と怒るんですよ。



相手の言葉使いに対してキレてるわけです。



そもそもはイケメンが仕事でミスをしたのもあるんですけど、電話で相手から舌打ちをされたことに怒ってるわけね。



社会人なら年下でも組織的には立場が上なら敬語を使いますし、相手から年下なのにタメ口で話されてもそれは相手の選択の自由だと思うんですよ。



それも含めて周りが判断することだからね。



ただね、舌打ちは違うだろってことだけに怒るべきなんですよ。



年下からのタメ口だとしても、役職として上の者からの作業指示ならば、それはタメ口でも構わない、だけども、舌打ちはそいつの個人的な感情でしかないからね。



それなのに普段から敬語を使ってることに対して文句を言うのは論点が違ってくるわけでさ。



年下だけど敬語を使ってやってると電話で怒ってる彼は、同じく年下である僕にも敬語なんでね。



クリスチャンと喧嘩してる時にも普段の優しさを逆手に取っていたのよ。



「いつもオレの工具を貸してやってんのに、最近は“貸してください”も言わないで勝手に使ってるよな!」と怒るわけ。



これとかは、親しくなってきたら毎回言わなくても借りるわけじゃん。



「ミサがある日は4時半に帰してやってるよな!」とも怒るわけ。



これは4時半に帰ることを許可した側に責任があるわけでね。



先輩がダメだと言ったら帰れないわけで、4時半に帰るという状況を作り出したのは彼で、それについて怒ってるのも彼だからね。



こんなにオレは優しくしてるのに…という喧嘩の仕方なんですね。



というか、それに怒ってるわけですね。



自分でやったことに自分で怒ってるわけです。



売店のオバチャンにもキレますからね(笑)



愛想の悪いオバチャンもいるわけなんですよ。



売店のオバチャンが手押しの台車で商品を重そうに運んでたから手伝ってあげたと。



これは彼の優しさですよね。



でもオバチャンとしては頼んだわけではないのよ。



で、彼が売店の商品を買おうとしたら断られたと。



朝礼の時間は売ることを禁止されてるらしいの。



彼はいつも朝はギリギリの時間にくるわけ、朝礼の途中に来る感じなのよ。



まぁ朝礼もラジオ体操してから千人規模の現場だと点呼だけでも5分くらいはずっと立ってるのよ。



今のテクノロジーならそんなのは無駄な時間でしかないけど、昔からのそういう規則みたいなもんですね。



でもね、そんなギリギリの時間にやってきたのに、売店のオバチャンを助ける彼の心意気は買うよ。



僕は彼の心意気は買うけども、売店のオバチャンは現場の規則だから、彼は商品は買えないよ。



そしたら彼、キレるよ(笑)



「あの売店のババア、せっかく手伝ってやったのに『売れない』とか言うから、“うっせえババア”って言ってやりましたよ」



これは単純に朝飯が買えなくて空腹だから彼は怒ってるわけです。



売店のオバチャンがツンデレなのもあるんですけどね。



その翌日くらいに僕もギリギリの時間に来るタイプなのでイケメンが売店に入ったタイミングでオバチャンと遭遇したわけです。



オバチャンは忙しいから「なんでこんな時間にばっかり来るのからしらね」と怒り気味。



僕「みんなお姉さんに会いたいからですよ」



オバチャン「なぁに言ってんのー」



しかし、ツンデレは案外ピュアなのだ。



イケメン「今日の売店のオバチャンいつもより感じが良くなかったですか?」



僕「そうですね」



イケメン「実はオレ、台車運ぶのまた手伝ってあげたんすよ」



僕「そーゆーこと!?僕もさっき『なんでこんな時間にばっかり来るんだろ』ってボヤいてたから“みんなお姉さんに会いたいからですよ”って言ったんですよ」



そりゃオバチャンの機嫌も良くなるわな。



基本的に彼は優しいのだ。



それなのに相手が否定すると、ちゃぶ台返しをしてしまう癖があるのだと思う。



そして話は戻るが、数時間の仮眠して待ち合わせ場所である渋谷に向かった。



夜の12時を過ぎていたが渋谷は人でごった返していた。



109の近くある交差点の喫煙所でイケメンと時間を潰すことになった。



イケメンは道路側のガードレールのような手刷りに腰掛けて座り、僕は灰皿を前にして立って通りの向かいにあるTSUTAYAを見るような位置関係だった。



するとそこへ酔っ払いらしき女がスマホで喋りながらやって来て、僕の背後を通過する時に僕の背負ってるリュックサックにぶつかったのだった。



酔っ払いかとシカトしていると、イケメンが何やらその酔っ払いに対して反応している。



イケメン「女の子が困ってますよ」と。



酔っ払いの電話の内容からすると迷子になってるらしい。



見た目はモデルみたいな、酒焼けした声の女だった。



僕「困ってる女の子なら助けてあげたらいいんじゃないですか?」



僕としては(私の神聖なリュックサックにぶつかるとは何事ですか?)と、完全に仕事モードなので酔っ払いと関わるつもりはない。



イケメンが僕に確認したのは困ってる女の子がいるってことで、そりゃ困ってる女の子を助けるのはいいことだと僕は思う。



ただ、僕がそう答えたことで、イケメンが真剣を抜く瞬間に立ち会うことになったのだ。



イケメンはiPhoneという刀を8とⅩの二本差しした侍なのである。



チャラ侍なのである。



建築現場では足軽であるが、渋谷の交差点では将軍だったのだ。



イケメン「どうしたんですか?」



まず、モデルみたいな女に平気で話し掛けれる将軍のメンタルに引く。



しかも相手は電話中なのだ。



それにより1度は無視されるも将軍は退却することなく2回目の出陣をした。



モデル(仮)「友達と待ち合わせしてて、駅の場所がわかんなくてぇ」



渋谷の駅なら目の前にあるのだ。



将軍「どこで待ち合わせしてるの?」



モデル(仮)「えーと、博多?」



将軍&僕「博多!?」



モデル(仮)「違う違う違う、博多じゃない、渋谷!」



博多と渋谷を間違える。



は、か、た、
し、ぶ、や、



3文字という共通点しか間違える理由が思い付かない。



ハチ公よりもバカだと思われる。



将軍「渋谷の駅なら目の前にあるよ」



バカ「渋谷から電車で…さっき携帯落としたから聞き取れなくて…」



将軍「オレ、ケータイ2つ持ってるから1つ貸してあげるよ」



バカ「いや、私ケータイよく落とすんで、慣れてるんで大丈夫です、ほら」



スマホの画面がボロボロなのである。



むしろキズだらけで小汚い感じすらするのだ。



そういう点では好感の持てるバカである。



将軍「じゃあ終電を調べてあげるよ…、あーもう終電には間に合わないよ」



おバカ「ウソー!?どうしよう!!」



将軍「友達が迎えに来る?それともタクる?」



僕にはタクるという日本語は初耳だったんすけど、タクシーを捕まえるって意味らしい、たぶん。



おバカ「迎えには来ないし、タクらないです」



将軍「家はどこなの?」



おバカ「横須賀です」



将軍「遠いなぁ、でもこんな時間にねぇ、可愛い子が一人でいたら危ないからね」



おバカ「いやいやいや」



将軍「俺ん家なら鍵あるから泊まれるよ。これから仕事だから明日帰る時に鍵をポストに入れといてくれればいいよ」



おバカ「知らない人の家に行くのは怖いからいいです」



将軍「じゃあどこかお店で始発まで時間潰す感じ?」



おバカ「…そうですね」



将軍「じゃあオレの知り合いの店、紹介してあげるよ」



ここで将軍はiPhoneの8とⅩを両手に取り出すのだった。



両手を動かしながら連絡先を探しているのである。



将軍「西麻布に知り合いの店あるから、ここからタクシーなら1700円くらい…」



おバカ「いえいえ、そんな、大丈夫です」



喋りながらも両手の端末を操作しているのだ。



将軍「それか、ここからなら道玄坂を登ったすぐにも知り合いの店あるから…もしもし?」



おバカ「そんな、迷惑…」



将軍「朝までなら飲むっしょ?」




おバカ「まぁ…飲みますね」



将軍「うん、飲むって言うから、そう、終電ないから、朝まで、いや1人、可愛い子、名前?満月満月ちゃん…」



この酔っ払いの名前を将軍が会話のどこで記憶したのか僕にはわからなかった。



とにかく僕らが仕事という戦場を駆け回っている時代に、将軍は遊びを極めていたのは間違いない。



西麻布の飲み屋に知り合いがいるのは僕の偏見からすると、ろくなもんじゃない(笑)



将軍「言っといたから、この道を真っ直ぐ行って、満月満月ビルを入って、地下に店があるから、満月満月(将軍)の紹介って言えばオッケーだから!」



おバカ「ありがとうございます」



将軍「忘れちゃうとアレだから、言ってみて」



おバカ「この道を真っ直ぐ行って、満月満月ビルを…」



将軍「そう、で、満月満月(将軍)の紹介でって言えばいいからね、でも迷っちゃうとアレだから、一応ラインだけ交換しとこうか?」



ラインを交換したおバカは将軍に感謝をすると渋谷の坂を登って行ったのでした。



そして将軍は僕にこう勝鬨をあげた。



将軍「ラインさえ交換しちゃえばこっちのもんすよ」



チャラい、チャラ過ぎる。



イケメン「まぁ、あの女もいずれオレのチンポをしゃぶることになるでしょう」



ダサい、決め台詞がダサ過ぎる。



けど、困ってる女の子に対しての優しさとしては100点である。



都会の男の子としてのカッコよさでも100点だ。



さすが未だに少年ジャンプを購読しているだけはある。



彼の好きなワンピースで言うなら、チャラチャラの実を食べてる能力者である。



彼がその能力をどう扱うのかは、それを面白がる仲間が影響していると思う。



僕は彼と酔っ払いの会話を最後まで黙って聞いていたが、大半の男は途中で割って入ると思う。



彼は、ああやって女を最初に不安にさせてから優しくして操ってんすよっと言うが、僕から見るとただただ彼は一生懸命に行動していたのだ。



周囲の男からの嫉妬に対する防衛本能というか、彼なりのバランス感覚なのかな。



何でもそうだけど100点出せちゃうとそうなるわけでね。



ただまぁ、彼が一生懸命になってる途中でバイトの依頼人が来てたけどね(笑)



何してんの?って(笑)



後半からだからナンパしてるようにしか見えないからね。



彼も「くっそー、これから仕事じゃなかったらなーっ」と、めっちゃ悔しそうでしたけどね。



僕の中でイケメンに対する見る目が変わった出来事でもある。



それは僕の責任で彼の誤った選択肢を消す覚悟があるからでもある。



ナンパではなく美談としてね。



つづく