友達からの電話9 | 天狗と河童の妖怪漫才

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妖怪芸人「天狗と河童」の会話を覗いてみて下さい。
笑える下ネタ満載……の筈です。

8時間も肉体労働をしたあとに小説を読むってのは睡眠導入剤のような効果がある。



夢の中で全速力で走ってるときみたいに、ずっと同じ行をひたすら無限ループして読んでいるだけで物語がちっとも前に進まないのだ。



なぜそこまでして小説なんぞを読んでいるのかはさておき、そろそろ頭の中を整理しないとややこしいので、ブログを書くとしよう。



ずっと俺の悩みの種だった(ちょっと発芽してたけどね)友達からの謎の着信履歴と、やっと繋がったのに電話をすぐに折り返し掛けさせたことについて本人に聞いてみたわけだ。



どうやら一時期ヤバい感じで、旦那が嫁である友達のスマホに残ってる通話履歴に片っ端から電話を掛けるようになったと。



これとか、まあ普通の感覚で捉えると束縛とか嫉妬みたいな嫁の浮気を疑う行動っていう解釈になると思うけど、友達の旦那の場合はちょっと違うんだな。



これは嫁に対する愛情とかじゃなくて旦那の自己愛というか、職業病のような感じだと思う。



ヤの字の連中は警戒心がすこぶる強いのだ。



旦那は嫁の実家に住んでた時には自宅の庭や裏手にある狭い通路に敷かれた砂利を防犯用の音が鳴る砂利と入れ替えてたくらいだからね。



でもさ、定年退職した義理の父親と、嫁に夜の仕事をさせといてテメエは働きもしないでずっと家にいるクソ旦那という、つまり、家にはジジイが常に二人もいるってのに何を防犯するんだって話だよ。



一番の宝物は自分の命というね、典型的なモテない君なんだわ。



自分が所有した物を手放したくないって想いが物欲とか執着なら、旦那のそれは自分が生きることに執着してるわけだ。



そうなるには人様に迷惑を掛けてまでも生きていたいという己の欲望を肯定してくれるシンボルが必要になってくる。



言い訳を量産してくれる神を求める。



自分にとって都合のいい生き方の見本が必要になってくる。



旦那の場合はそれが極道だったと、まぁそれならば悪党を名乗るだけ潔い生き方だとは思うけど。



人は誰しも何かしらを崇拝して生きているわけで、その中でも揺れ動いたり、崇める者同士で衝突するのが人間なんだろうけどね。



結果的には友達の実家は土地と建物を旦那に奪われて、売りに出されてしまったわけだ。



自分の嫁の実家を売るのは義理の両親が作った借金が原因だと考えたら仕方がないと、そのことについては俺も納得するのかもしれない。



いや、俺の考えや価値観とか感覚がおかしいのかもしれない。



それよりも俺が納得いかねえのは、その実家の庭にあった木を切ったことだから。



その木は友達が産まれたときに親戚からの出産祝いで植えられた記念樹で、それを旦那が邪魔だから切れと、嫁に命令して業者を呼ばせて伐採させたのだ。



それを許す友達の父親もどうかと思うけど、父親のことを悪く言うと娘である友達が怒るからあれなんだけどさ、なんつーか、そういうお父さん大好き娘に育てた犯人は父親じゃん。



いくらなんでも金のないジジイとババアが熟年離婚したら子供に迷惑を掛けることくらい予測できるだろうに。



子供の為に親が我慢するって感覚は育った環境によるから仕方ないのはわかるけど。



俺は実家が本家だったから戦時中の話を爺ちゃん婆ちゃんから聞いて育った環境なわけ。



ガチもガチで命懸けで愛する者の為に死にに行く時代だったわけでさ。



歴史の教科書とか漫画やアニメじゃなく、自分の爺ちゃんが実写版でだよ。



そんなの同じ男として勝てるわけねえじゃん。



婆ちゃんにしても嫁いですぐに爺ちゃんが出兵したもんだから、爺ちゃんのまだ幼い弟や妹たちを連れて防空壕に逃げ込んでたわけよ。



俺にとっての防空壕だった婆ちゃんが、ガチの防空壕に避難してたわけだよ。



時代が違うとはいえ、当時の二人は今の俺よりも遥かに若い頃の話だからね。



家族の為に犠牲になるしかなかったわけですよ。



だから僕がこうして生きて存在しているわけです。



それを軍事教育による洗脳ってことで理解することも可能だし、それが全てではないと反発する感情もあるわけで、だから、友達の父親に対する感情も自発的な犠牲心なのだと尊重することもできなくもない。



まあ実際には尊重っていう言葉じゃなくて、身体中の体液が目から流れて止まらなくなったわけだけど。



家族の中にヒーローがいねえのかよって。



何かを守る為に自分が犠牲になる。



だけど時代とか関係なくそんなことが確かに存在すると証明されるのは何かと言ったらそれは出産だろう。



友達は子供を望まないことを条件に旦那と結婚したわけだけど、出産と出兵は違うとしてもそれが男なら戦時中に非国民だとされる本音や葛藤の部分だったとして、それを己の意思ではなく洗脳か非国民という環境で出兵からは逃れる選択肢はなかった時代だったとするならば、出産というプログラムを女に背負わせた責任者は一体誰なんだと。



もし俺に娘が生まれたら反抗期には絶対にちゃんと娘から嫌われるように育てるわ。



つーか、娘だけは授かりたくない。



クソみたいな野郎と結婚するのは許さない。



どんなに金持ちだとしても娘の誕生祝いの記念樹を切るようなやつ、俺は認めない。



しかも自分がノコギリで伐採するわけでも業者を手配するわけでもなく、嫁に命令してやらせるという、最終決断の責任を嫁に押し付けてる超小賢しいテクニックが心底ムカつく。



いや、もしかしたら俺の感覚がおかしいのかな?って自分を疑いたくもなる。



庭に木が無い方が家を高く売れるって話なのか、それは知らないけどさ。



生えてても1銭にもならない邪魔な木が庭にあったとして、伐採したら家が高く売れるならそっちが得だと。



お金は裏切らないと。



それか嫁に対して家族との繋がりや親子の縁を断ち切らせる意味で決別する為の踏み絵みたいな感覚なのか知らないけど。



うわ、なにこのサイコパス野郎、すげぇ気色悪いんだけど。



木にも想いは宿るし、心の拠り所にもなるし、そこには値打ちなんて下品なもんは当てはまらない、俺はそう思う。



金が目的のやつが笑わないのはここの一線を越えて行ってるからなんだろな。



損得勘定にも笑えるツッコミの視点があるとすれば、木を伐採したことで少しだけ高く売れる金額が、業者に支払った伐採費用の金額よりも下回った場合のみだろう。



記念樹はただの植物で不動産とは財産なんだと考えるわけだ。



笑う目的での変換じゃなくて、金を得る目的の為に余計な感情を全て棄てる。



この感覚が俺にはまだピンと来ない。



感情の原価計算なんて嫌だよ。



綺麗事だと言われても、金で買えるなら綺麗事を買い占めたい。



旦那の視点がどこにあるのか?



前に友達の運転するベンツで友達の実家の駐車場までは行ったことはあったけど、まぁ友達の実家もこの辺りだと大きい家だとは思う。



3階建てで車が2台停めれるガレージと小さい庭付きの家だった。



友達は、私はお父さんが死ぬまで大きな家に住ませてあげたいと言っていた。



旦那も書類上の家の持ち主は自分でも、はたから見れば嫁の実家だというのにそこへ仲間を遠方から呼んで家に泊めてたりするくらいだから、当然ながら自分の所有物を自慢したかったのだろう。



俺は友達の言うところの大きな家を目の前で見たわけだけど、正直、大きいとかスゲェとかは別に何も思わなかった。



むしろ田舎者の俺からすると、それでもかなり小さい家なのよね。



俺の実家は本家だったから庭で兄貴と余裕でキャッチボールできるくらいの広さだったからね。



幼稚園から高校まで一緒だった幼馴染みのやつらも家が本家だったから、田舎じゃそれが当たり前のサイズだと思ってたから他人の家を見てビビるってことはない。



それよりも当時の記憶の中では、自分の家が水洗トイレじゃなく汲み取り式の“ぼっとん便所”である危機感の方が強かった。



そういう最初からあった当たり前の環境を残したいという友達の考えはシンプルに理解できるけど、せっせと防犯用の砂利を撒く旦那の背中やその視点とは合わないわけよ。



それより友達の父親の本家が創業者である企業の敷地やその規模は相当なもんなのに、その本家から友達の家族が絶縁されて見放されてることについて、俺の本家からの視点だとそれは友達の視点とは合わない。



家族の中で俺だけ末っ子の次男坊だったから本家での長男やその嫁さんの抱える苦悩や使命や姿勢をずっと見てきてるからだろね。



友達の旦那のやることは何かしら自分の為になることばかりで、ようするに面白くないのよ。



でだ、旦那は電話を掛けるだけじゃ終わらず、携帯会社から通話履歴を取り寄せて調べていたと。



これは携帯の使用料金を通信費という経費にする場合に、私用の電話と業務連絡を区別する名目としてデータを取り寄せることが出来る。



それを何の目的で使うかは契約者の自由なわけだ。



嫁がどこに電話を掛けて、どれくらいの時間を話したかも旦那に把握されることになる。



その相手が家族なのか友人なのか、弁護士なのか、通話時間によるおおよその会話の内容までも読まれるだろう。



何かしらの目的があるからこそ、嫁から相手に電話を掛けることになる。



友達が俺にすぐ折り返すように言った理由とは、そこを回避する為だったそうだ。



俺からの電話に出れなかったのは、たまたまタイミングが合わなかったと。



俺からのショートメールは届いていたらしいが、それに返信することも出来なかったのだろう。



「もう離婚したいんだけど」と旦那に切り出したら今すぐ1千万を払うように言われたと。



そう言うからにはどうにかして嫁が金を用意したと旦那は予測するだろう。



実家の立て替えたローンも全て返せと言われたそうだ。



ようするに旦那は1千万を用意しても嫁と別れるつもりはさらさらないのだ。



こうなると警察も弁護士も動くことはできない。



嫁に直接的な暴力を振るえばその時点で離婚が成立してしまうので旦那は家の中で暴れ回ると。



仮に離婚しても安全を保証することは不可能だ。



“あの人は私とお父さんを殺して懲役に行くだけ”



極刑でしか救われないのが現実なのだ。




こいつは男のくせに死ねないのだ。



バツイチ男を全面的に肯定するならば、それは自分が別れることで相手を自由にし、ダメ男としての烙印を受け入れて生きるという小さな器でしかない。



友達の旦那は一人では死ねないヤツ。



自分の世界でしか生きれないヤツ。



最後は誰かを道ずれにするヤツ。



よろしくねえよ。